テストマッチ通算トライの世界記録を持っているのは誰か。ロムーでもハバナでもない。日本の大畑大介だ。58キャップで69トライ。2026年9月時点でも、この数字を超えた選手はいない。ウイング(WTB)は「最後の5メートルを走る者」。だが、その仕事は時代とともに大きく変わってきた。この記事では、キャンピージー、ロムー、ハバナから現代まで、ウイングの進化を追いながら、日本の伝説のトライゲッターたちを振り返る。
- ウイングの仕事は「トライを取り切る」だけでなく、「ハイボールの競り合い」「防御」「内側に入ってのボールキャリー」へと広がった
- 時代で見ると、キャンピージー(ステップ)→ロムー(パワー)→ハバナ(スピード)→現代(空中戦と万能性)と進化してきた
- 大畑大介のテスト通算69トライは、2026年9月時点でも世界最多
- 今の日本代表は植田和磨、木田晴斗、イノケ・ブルアら、新しいタイプのウイングが競う
Contents 目次
ウイングは「フィニッシャー」だけじゃない
ウイングは背番号11と14。BKラインの一番外側、タッチライン際に立つ。ポジション全体の中での位置づけはポジションと役割の記事で紹介した。昔から「ウイングは足が速ければいい」と言われてきたが、今はそれだけでは通用しない。
現代のウイングの仕事を分けると、こうなる。
- トライを取り切る味方が作ったチャンスを、最後の数メートルで確実にトライに変える。ここは昔も今も変わらない。
- 空中戦相手のハイパントを捕る、味方のキックを追いかけて競り合う。キックの多い現代ラグビーでは、ここの強さが試合を左右する。
- 防御外側のスペースを一人で守る。相手のウイングとの一対一は、抜かれればトライに直結する。
- 内側での仕事外で待つだけでなく、ラックの近くに入ってボールキャリアとして前に出る。
時代で追う、ウイングの進化
キャンピージー――ステップで「消える」ウイング
- ポジション
- WTB(11番)
- 生年・出身
- 1962年・オーストラリア
- 所属
- 引退
- 代表キャップ
- オーストラリア代表101キャップ(64トライ)
出典:Wikipedia英語版
1980年代から90年代のウイングを代表するのが、オーストラリアのデビッド・キャンピージーだ。1982年から1996年までに101キャップ、64トライ。引退した時点ではテスト通算トライの世界記録だった。オーストラリア人として初めて100キャップに到達した選手でもある。
代名詞は「グースステップ」。走りながら片足を跳ね上げるような独特の動きで、タックラーのタイミングを狂わせた。1991年W杯では6トライを挙げて大会最優秀選手に選ばれている。体の大きさではなく、ステップとひらめきで抜く。この時代のウイングの理想像だった。
ロムー――ウイングの常識を壊した男
- ポジション
- WTB(11番)
- 生年・出身
- 1975年・ニュージーランド
- 所属
- 故人(2015年逝去)
- 代表キャップ
- NZ代表63キャップ(37トライ)
出典:Wikipedia英語版
ウイングの歴史は、ジョナ・ロムーの前と後で分けられる。196cm、125kg。それまでのウイングの常識から外れた巨体で、100mを11秒2で走った。1994年、19歳45日でオールブラックス最年少デビュー。
世界を震撼させたのは1995年W杯の準決勝、イングランド戦だ。この試合でロムーは4トライ。タックラーを何人も弾き飛ばし、上を踏み越えるように走る姿は、ラグビーを知らない人にまで衝撃を与えた。W杯通算15トライは、今も大会の最多記録(ハバナと並ぶ)。
一方で、ロムーは1995年に腎臓の病気と診断され、2004年に腎臓移植を受けながらプレーを続けた。2015年11月、40歳で亡くなった。ウイングに「パワー」という新しい価値を持ち込んだその功績は、これからも色あせない。
ハバナ――スピードの極致
- ポジション
- WTB(11番)
- 生年・出身
- 1983年・南アフリカ
- 所属
- 引退(2018年)
- 代表キャップ
- 南アフリカ代表124キャップ(67トライ)
出典:Wikipedia英語版
ロムーがパワーなら、南アフリカのブライアン・ハバナはスピードの極致だった。124キャップで67トライは、テスト通算トライの歴代2位。2007年W杯では8トライを挙げ、ロムーの1大会最多記録に並んで南アフリカの優勝に貢献。その年のIRB(現ワールドラグビー)年間最優秀選手にも選ばれた。2015年W杯のアメリカ戦でハットトリックを決め、W杯通算トライでもロムーの15に並んだ。
ちなみにハバナは2007年、絶滅危惧種の保護を訴えるイベントでチーターと100m走で対決している。結果はさすがに負け。それでも「チーターと比べたくなるウイング」だったこと自体が、彼の速さを物語っている。2018年に現役を引退した。
現代――空中戦と万能性の時代
そして今。現代のウイングに求められるのは、スピードやパワーに加えて「空中戦」の強さだ。キックで陣地を取り合い、競り合いでボールを奪い返すのが今のラグビーの主戦場の一つ。ウイングはハイボールを捕り、追いかけ、競る。背が高く、ジャンプ力のあるウイングが重宝されるようになった理由はここにある。
さらに、外で待っているだけでは足りない。ラックの近くに入ってボールを運び、防御では内側に絞って人数を合わせる。フルバックの役割を兼ねることも増えた。「足が速い人の場所」だったウイングは、「何でもできる人の場所」に変わりつつある。
| 時代 | 代表的な選手 | 武器 |
|---|---|---|
| 1980〜90年代 | デビッド・キャンピージー | ステップ、ひらめき |
| 1990〜2000年代 | ジョナ・ロムー | サイズとパワー |
| 2000〜2010年代 | ブライアン・ハバナ | スピード、決定力 |
| 現代 | 各国の主力ウイング | 空中戦、防御、内側での仕事までこなす万能性 |
日本の伝説のトライゲッター
大畑大介――世界最多69トライ
- ポジション
- WTB(ウイング)
- 生年・出身
- 1975年・大阪府
- 所属
- 神戸製鋼コベルコスティーラーズ(2010年シーズンで引退)
- 代表キャップ
- 日本代表58キャップ(テスト通算69トライ)
出典:Wikipedia日本語版・英語版
日本のウイングを語るなら、まずこの人だ。大畑大介は日本代表58キャップでテスト通算69トライ。2006年5月にキャンピージーの64トライを抜いて世界記録を更新し、2026年9月時点でも歴代1位のままだ。2位のハバナが67トライだから、その差はわずか2つ。それでもこの記録は20年近く破られていない。
2002年7月の台湾戦では、1試合8トライという日本のテストマッチ記録も作った。記録の中にはアジアの国との試合が多く含まれるのは事実で、そこを指摘する声もある。ただ、どの相手でもトライを取り切るのは簡単ではない。58試合で69トライ、1試合平均で1本を超えるペースを10年にわたって続けたこと自体が、フィニッシャーとしての異常な決定力を示している。2016年には、坂田好弘に続いて日本人2人目となるワールドラグビー殿堂入りを果たしている。
福岡堅樹――W杯で世界を驚かせた「医師を目指すウイング」
- ポジション
- WTB(11番)
- 生年・出身
- 福岡県古賀市
- 所属
- パナソニックワイルドナイツ(2021年引退)
- 代表キャップ
- 日本代表38キャップ
出典:Wikipedia日本語版
2019年W杯日本大会で、世界中のファンの記憶に残ったのが福岡堅樹だ。開幕戦のロシア戦は負傷で欠場したが、第2戦のアイルランド戦から出場。4試合で4トライを挙げ、大会公式サイトが選ぶ「マグニフィセント・セブン」に日本からただ一人選ばれた。
特に、スコットランド戦での2トライは今も語り草だ。相手のボールを奪い取ってそのまま走り切った場面は、ウイングが「待つ」だけでなく「奪いに行く」ポジションであることを見せつけた。2016年のリオ五輪には7人制日本代表としても出場している。2021年、順天堂大学医学部への合格を発表し、同年5月の日本選手権決勝を最後に現役を引退した。
松島幸太朗――ウイングもフルバックもこなす万能型
2019年W杯の開幕戦、ロシア戦でハットトリックを決めたのが松島幸太朗だ。W杯で日本代表選手がハットトリックを記録したのは史上初だった。ウイングとフルバックの両方で世界と戦ってきた万能型で、まさに「現代のウイング」を体現する選手。フルバックとしての松島については、フルバックの記事でも取り上げる。
Q1テストマッチ通算トライの世界記録を持つ大畑大介。記録を更新したとき、それまでの記録保持者は誰だった?答えを見る
答えはオーストラリアのデビッド・キャンピージー(64トライ)。大畑は2006年5月にこの記録を抜き、最終的に69トライまで伸ばした。
2026年、日本代表のウイングは新しい顔ぶれへ
PNCに向けた日本代表の宮崎(大阪)合宿メンバー(8月24日発表、9月16日更新)には、ウイングとして植田和磨(コベルコ神戸スティーラーズ)、木田晴斗(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、イノケ・ブルア(コベルコ神戸スティーラーズ)が名を連ねた。
植田和磨は報徳学園高校、近畿大学を経て神戸へ。近畿大学の副将だった2024年には、7人制日本代表としてパリ五輪に出場した。2025年11月のウェールズ戦で15人制の初キャップを獲得し、2026年7月2日時点で2キャップ。2025-26シーズンは終盤戦で先発に返り咲き、神戸の日本一に貢献した。スペースを射抜くランとハイボールキャッチが長所で、まさに現代型のウイングだ。
木田晴斗は、小学4年で極真空手の世界ジュニア選手権を制したという異色の経歴を持つ。立命館大学からクボタスピアーズに入り、リーグワンのベストラインブレイカーを2度獲得。2025年9月のアメリカ戦で初キャップを得た。力感のあるランと左足のキックが魅力だ。
イノケ・ブルアはフィジー出身。流通経済大学を経て、横浜キヤノンイーグルスでは実質1年目にプレーオフを含めて14トライ。神戸に移ってからは肉体改造に取り組み、2025-26シーズンは爆発的なランでチームの日本一に貢献した。2026年6月に日本代表に初選出されている。
ウイングの一番の武器は何か。スピード派は「どれだけ戦術が変わっても、最後の5メートルを走り切れるのは速い選手だけ」と言う。万能派は「今のラグビーでは、キックの競り合いに勝てないウイングは使われない」と返す。植田のようにハイボールに強く、木田のように突破力があり、ブルアのようにパワーで押し込める。今の日本代表には、両方の要素を持った選手が揃いつつある。
最後の5メートルは、いつの時代も同じ重さ
ステップで抜いたキャンピージー、パワーで押し切ったロムー、スピードで置き去りにしたハバナ。そして日本では、大畑が世界最多のトライを積み上げ、福岡が世界の舞台で輝き、松島が万能性を示した。ウイングに求められるものは時代とともに変わってきたが、最後の5メートルを走り切ってトライを取る、という仕事の重さだけは変わらない。
キックの競り合いについてはキックの種類の記事も参考にしてほしい。そして歴代の名選手を並べた日本代表・歴代最強フィフティーンで、あなたが選ぶ11番と14番を考えてみてほしい。
参考:List of leading rugby union test try scorers(Wikipedia)/Jonah Lomu(Wikipedia)/Bryan Habana(Wikipedia)/大畑大介(Wikipedia)/福岡堅樹(Wikipedia)/植田和磨(J SPORTS日本代表選手名鑑)/クリスチャン・ロアマヌ 選手プロフィール(JRFU)/クリスチャン・ロアマヌ(Wikipedia)
