2026年9月19日、秩父宮。日本がフィジーを20-15で振り切り、パシフィックネーションズカップを7年ぶりに制した夜、大会最優秀選手(プレーヤー・オブ・ザ・トーナメント)に選ばれたのは165センチのスクラムハーフだった。齋藤直人。9月の3試合でゲームキャプテンを務め、2026年の日本代表のテストマッチ8試合すべてに先発した。2年前、彼はアントワーヌ・デュポンがいるトゥールーズへ渡った。控えになることがわかっている場所へ、あえて。その2年で何が変わったのかを追っていく。
- 齋藤直人は2024-25シーズンからフランスTOP14のトゥールーズに2季在籍し、2026-27シーズンから東京サントリーサンゴリアスへ3季ぶりに復帰した。
- 日本代表キャップは36(2026年9月19日のPNC決勝終了時点)。2026年は8試合すべてに先発し、9月の3試合ではゲームキャプテンを務めた。
- フランスで伸びたのは「キック」と「状況への反応」。本人は「目の前の状況に反応するようになった」と語っている。
- W杯2027の9番争いは、齋藤と藤原忍(クボタスピアーズ)の二人が軸になりそうだ。
Contents 目次
横浜のラグビースクールから、早稲田の日本一へ
齋藤は1997年8月26日、神奈川県生まれ。父がコーチをしていた横浜ラグビースクールで3歳からボールに触れた。最初はSO(スタンドオフ)で、SHに変わったのは小学5年のときだという。
桐蔭学園高校では主将として全国高校ラグビーで準優勝し、高校日本代表にも選ばれた。早稲田大学では2019年度に主将を務め、全国大学選手権で11大会ぶりの優勝。2020年にサントリー(現・東京サントリーサンゴリアス)に入り、2021年6月26日、ブリティッシュ・アンド・アイリッシュ・ライオンズ戦で日本代表の初キャップを得た。2023年のW杯フランス大会にも出場している。
- ポジション
- SH(スクラムハーフ)
- 生年・出身
- 1997年8月26日・神奈川県出身
- 所属
- 東京サントリーサンゴリアス(2026-27シーズンから)
- 代表キャップ
- 36(2026年9月19日時点)
出典:ラグビーリパブリック、日本ラグビーフットボール協会
SHの仕事をひと言でいえば、FWが作ったボールをBKへ運ぶこと。ラックやスクラムからボールを拾い、パスするか、蹴るか、自分で走るかを一瞬で決める。ポジションの歴史や世界の名SHはスクラムハーフの特徴と伝説の9番にまとめた。
デュポンのいるクラブへ、あえて
2024年5月、齋藤はサンゴリアスを退団し、7月にトゥールーズへ加わった。トゥールーズはフランス国内リーグTOP14の王者で、SHにはフランス代表のアントワーヌ・デュポンがいる。2021年にワールドラグビーの年間最優秀選手に選ばれ、7人制でも2024年パリ五輪の金メダルを獲った選手だ。そこへ行けば、控えに回るのはわかっていた。
それでも出場機会は少しずつ増えた。2025年5月10日のトゥーロン戦でクラブ初トライ。6月にはクラブとの契約が1年延長された。当初は1年契約で延長のオプションもないと発表されていたから、評価を勝ち取った形だ。トゥールーズは2024-25シーズンにTOP14で3連覇を達成。齋藤は決勝でリザーブに入ったが、出場機会はなかった。本人は後に、それでもあのタイトルが一番の思い出だと振り返っている。
2季目の2025-26シーズンは、3月のボルドー戦のあと5月まで出場機会を待つ時期もあった。5月30日、本拠地での最後の試合となったリヨン戦で先発。ユーゴ・モラHCは試合終盤の78分に齋藤だけを下げ、観客がスタンディングオベーションで送り出せるようにした。トゥールーズはこのシーズンもTOP14を制し、4連覇を達成している。
そもそも、なぜフランスだったのか。齋藤の答えははっきりしている。2023年のW杯で予選プール敗退を味わい、2027年のオーストラリア大会で勝つために、普段から強い相手に揉まれたかった。本人の言葉では、本当の目的は「成長した状態でワールドカップに臨んで結果を残したい、ということ」(ラグビーリパブリック、2026年7月27日)。トップ14はレベルも強度も高く、移動も多い。そこで2年間過ごしたことがプラスになっていると思いたい、とも話している。まだ「行ってよかった」と言い切れる実感はない、と正直に付け加えているのが齋藤らしい。
Q1齋藤直人が主将を務めた2019年度、早稲田大学は全国大学選手権で何大会ぶりに優勝した?答えを見る
答えは11大会ぶり。齋藤は桐蔭学園高でも主将を務めており、高校・大学とチームの先頭に立ってきた。
フランスで何が変わったのか
一番わかりやすい変化はキックだ。トップ14では、SHに蹴る判断が強く求められる。ボックスキック(ラックの後ろから高く蹴り上げるキック)で陣地を取り、競り合いに持ち込む。サンゴリアス時代の齋藤は、速いパスでテンポを上げるSHという印象が強かった。フランスから戻った齋藤は、同じ速さのまま蹴る選択肢を持っている。キックの種類についてはキックの種類と蹴り方を参照してほしい。
もう一つは、判断の仕方だ。7月の網走合宿のころ、本人はこう話している。
ラグビーに関して言えば、目の前の状況に反応するようになったというか…— 齋藤直人(ラグビーリパブリック、2026年7月27日)
決まった形をなぞるだけでなく、スペースがあれば突く。自分の直感を信じてプレーする機会が増えた、とも語った。そのうえで、キックを使っても日本のアイデンティティはアタックであり、どちらか一辺倒ではだめだと強調している。蹴れるようになったから蹴る、ではない。蹴る選択肢を持ったうえで、パスの速さを生かす。ここが“進化”の中身だと思う。
ちなみに、齋藤のパスそのものの速さは健在だ。低い姿勢のまま、ボールを拾う動作と投げる動作をほぼ一つにまとめる。パスの基本はパスの投げ方で解説している。
2026年、8試合すべてに先発
2026年の日本代表で、齋藤は数字の上でも中心にいた。6月下旬までトゥールーズのシーズンを戦い、代表に合流して1週間足らずで7月4日のイタリア戦に先発。そこから9月19日のPNC決勝まで、8試合すべてで先発9番を務めた。SOの伊藤龍之介とも8試合連続でハーフ団を組んでいる。
| 日付(2026年) | 相手 | スコア | メモ |
|---|---|---|---|
| 7月4日 | イタリア | 27-10 | 先発 |
| 7月11日 | アイルランド | 20-36 | 先発 |
| 7月18日 | フランス | 15-42 | 先発・フル出場 |
| 8月8日 | オーストラリア | 32-35 | 先発 |
| 8月15日 | オーストラリア | 17-56 | 先発・トライ |
| 9月5日 | カナダ | 57-12 | 先発・ゲームキャプテン |
| 9月12日 | アメリカ(PNC準決勝) | 63-14 | 先発・ゲームキャプテン |
| 9月19日 | フィジー(PNC決勝) | 20-15 | 先発・ゲームキャプテン |
8月15日のタウンズビルでは、敵陣22メートル内で得たペナルティから素早くタップして仕掛け、自らトライを奪った。SHの“クイックタップ”は、相手が並び直す前の1〜2秒を突くプレー。判断が遅れれば何も起きない。
7月18日のフランス戦の後、齋藤は「フランスがベストメンバーではない中でこの結果だったことは受け止めなければならない」と完敗を認めつつ、「下を向いている暇はない」と前を向いた。W杯2027のプール戦で日本はフランスと再戦する。両国の過去の対戦は日本対フランスの対戦成績で振り返っている。
キャプテンとしての9月
8月下旬に始まった宮崎・大阪合宿で、それまで主将を務めていたワーナー・ディアンズがコンディションを考慮して選外になった。そこで現スコッドのキャプテンに任命されたのが齋藤だ。9月5日のカナダ戦、12日のアメリカ戦、19日のフィジー戦と、3試合続けてゲームキャプテンを務めた。
決勝前、齋藤はフィジーについて「入りが大事。受けずに、自分たちからメッセージが伝えられるようなスタートをしたい」と話していた。試合後には、リードが少ない終盤をどう過ごすかをチームで統一して締められたことに「チームの成長を感じた」と振り返っている(いずれもラグビーリパブリック)。
W杯の先発9番は、齋藤か藤原か
日本代表のSHには、もう一人の有力候補がいる。クボタスピアーズ船橋・東京ベイの藤原忍だ。2026年の夏はコンディションの都合で代表を離れていたが、8月末の合宿で復帰し、PNC決勝ではリザーブから出場した。決勝のメンバー発表時点で20キャップ、27歳。
齋藤直人派:トゥールーズで2季揉まれ、キックの判断を持ち帰った。2026年は8試合すべて先発でPNC最優秀選手、キャプテンも務めた。W杯の大一番で任せるならこっちだ。藤原忍派:スピアーズでテンポの速いアタックを引っ張ってきた。後半に入ってテンポを上げる役なら藤原が合う。先発と控えの役割分担で考えると、答えは一つではない。
個人的には、先発・齋藤、後半・藤原という形がいちばん怖いと思う。前半は齋藤のキックで陣地を取り、相手の足が止まった後半に藤原がテンポを上げる。二人のタイプが違うからこそ成り立つ組み合わせだ。
齋藤自身は、2年間海外でプレーしたあと、W杯の前の年には日本でプレーすると最初から決めていたと話している。代表に呼ばれやすい環境を整えたのも計画通り、と。サンゴリアスでは2026-27シーズンから沢木敬介監督が7季ぶりに指揮を執る。12月12日に開幕するリーグワンで、黄色いジャージの9番がまた見られる。フランスで身につけたものが日本のリーグでどう出るのか、そこも見どころだ。
参考:ラグビーリパブリック(2026年6月30日)/ラグビーリパブリック(2026年6月2日)/ラグビーリパブリック(2026年7月27日)/ラグビーリパブリック(2026年9月17日)/ラグビーリパブリック(2026年9月19日)/日本ラグビーフットボール協会 PNC2026決勝 公式試合記録
