ラグビーのパスは「腕力で投げる」ものではありません。後ろの手で押し出して、指先で回転をかけ、最後に指で狙った場所を指す。これだけ覚えれば、昔ながらの「大きく振りかぶるパス」から卒業できます。この記事では、試合でいちばん使うスピンパスを中心に、正しい持ち方、狙う場所、前に投げてはいけないルールの中身(2026年版の競技規則)、年代別の練習の組み方までを順番に説明します。読み終えたら、今日の練習で何を直せばいいかが分かるはずです。
- スピンパスは腕を大きく振り回さず、後ろの手の押し出しと指先の回転で飛ばす。前の手は方向を決めるガイド役(World Rugby Passportでも、右に投げるなら左手が力と回転、右手が安定と方向)。
- 狙うのは受け手の体ではなく、受け手が走り込む先の胸の高さ。World Rugbyのコーチング資料も「受け手の前、胸の高さ」を的にしている。
- World Rugby競技規則(2026年版)第11条では、スローフォワードはスクラム、故意ならペナルティ。英語版の定義は「パスする選手の腕が前に動いたら」スローフォワード。
- ボールの大きさは年代で変わる。日本協会の年齢別ラグビーでは小学校高学年は4号球、中学生以上は5号球。
- 練習は5mから始めて10m、15mへ。形が崩れたら距離を戻すのが上達の近道。
Contents 目次
パスの持ち方は?ボールは「指」で持つ
答えは、手のひらではなく指で持つこと。手のひらとボールの間にすき間ができていれば正解です。パスがうまくいかない人の多くは、ボールを手のひらでべったり抱えています。これでは指に引っかかりができず、回転もコントロールも生まれません。
- 両手を大きく開くボールの左右から、指を縫い目に沿うように広げて添えます。
- 親指は上、ボールの後ろ側へ両手の親指が上を向き、ボールの中心より少し後ろに来るように持ちます。
- 手のひらを浮かせる手のひらとボールの間に、指一本分くらいのすき間ができれば正解です。
- ボールは体の前、少し先端を下げて胸からへその前あたりで構えます。先端をやや下に向けると、まっすぐ飛ぶ軸ができます。
World Rugbyの指導者向けサイト「World Rugby Passport」では、スピンパス(英語ではspiral pass)のポイントとして、ボールの長い軸を水平から約30度傾けること、右に投げるなら左手が力と回転を、右手が安定と方向を受け持つこと(左に投げるときは逆)を挙げています。下の図の「前の手」「後ろの手」は、この役割分担のことです。
スピンパスの投げ方:押して、転がして、指さす
スピンパスは、ボールの長い軸を中心に回転をかけ、遠くまでまっすぐ速く飛ばすパスです。日本では「スクリューパス」とも呼ばれます。バックスはもちろん、今はフォワードも当たり前に使います。流れは次の4つ。
- 投げる前に、受け手を見る先に目で受け手を確認してから投げます。ボールを見たままのパスは、ほぼ確実にずれます。
- ボールを外側の腰の近くへ左に投げるなら右の腰の近くまで引きます。大きく振りかぶる必要はありません。引きすぎると相手に読まれ、動作も遅くなります。
- 後ろの手で押し出す右手でボールを左方向へ押し出します。このとき前の手は添えるだけ。腕は大きく回さず、体の前を横切るようにコンパクトに振り、最後は手首と指で押し出します。World Rugby Passportも、胸・肩・ひじ・手首を使ってボールの速さと軌道を調整するとしています。
- 指先で回転をかけ、指で狙いをさすボールが手から離れる瞬間、後ろの手の指先でボールの表面を転がすようにすると回転がかかります。投げ終わりは両手の指先が狙った場所を指し、手のひらは外側を向きます。
腕は大きく振り回さず、ボールを「押し出して」「指で転がす」。— スピンパスのいちばん大事な感覚
体の向きには注意がひとつ。World Rugby Passportの基本のパスでは「ディフェンスに対して体を横向き(side on)にし、サポートの受け手に向く」とされています。大事なのは、そのひねりを上半身の中で収めること。腰から下まで横を向いて走るコースが外へ流れると、外の味方のスペースをつぶしてしまいます。足は前へ、胸と肩で受け手に向き、腕と手首でボールを運ぶ。これが試合で使える形です。
どこに投げる?「受け手の前・胸の高さ」を狙う
狙うのは受け手が走り込む先の、胸の高さです。World Rugby Passportも、パスの的を「受け手の前、胸の高さ(chest height in front of the receiver)」としています。よくある勘違いが「受け手の胸に投げる」こと。受け手は走っているので、今いる胸をめがけて投げるとボールが後ろにずれ、スピードを落として取ることになります。
ここでいう「前」は、受け手の進む先という意味です。投げる自分より前(相手ゴール側)に投げていいわけではありません。受け手が深い位置から走り込んでいるから、真横か少し後ろへのパスでも「走り込む先」に届きます。
受け手側にも役割があります。World Rugby Passportが挙げる受け手のポイントは、ボールに向かって前へ出て取ること、腕を伸ばして投げ手に的を見せること、指を広げて手を上げておくこと(親指どうしは近く)、指と親指がボールに触れるまで目を離さないこと。とくに両手を前に出して「ここに投げて」と的を作るだけで、投げ手は狙いやすくなり、キャッチからパスまでの動作も短くなります。
前に投げたら反則?スローフォワードのルール
反則です。World Rugbyの競技規則(2026年版)第11条で、スローフォワードはスクラム、故意に前へ投げたらペナルティと決まっています。ラグビーは「ボールを持って前へ進み、パスは横か後ろへ」が大原則。競技規則の冒頭にある「プレー憲章」でも、ラグビーらしさを支える特徴のひとつとして後ろへのパス(the backward pass)が挙げられています。
| 項目 | 2026年版 競技規則の要旨 |
|---|---|
| スローフォワードの定義 | 選手がボールを前方へ投げる、またはパスすること。英語版は「パスする選手の腕が前に動いた場合」と説明している |
| 「前方」の定義 | 相手側のデッドボールラインに向かう方向 |
| 第11条6項 | スローフォワードは競技区域のどこでも起こりうる。罰はスクラム |
| 第11条7項 | 故意にボールを前方へ投げたりパスしたりしてはならない。罰はペナルティ |
| 第10条3項 | 故意ではないスローフォワードを受け取った選手は、オフサイドにならない |
| 用語の変更 | 第11条の題名は「ノックフォワードまたはスローフォワード」。日本語版では「ノックフォワード(以前のノックオン)」と表記 |
ちなみに、ボールを前に落とす反則はずっと「ノックオン」と呼ばれてきましたが、World Rugbyの用語変更を受けて、日本協会は2025年1月の通達で「ノックオン→ノックフォワード」を知らせ、国内でも順次新しい用語に切り替えてきました。2026年版の競技規則にもこの名前で載っています。中継で「ノックフォワード」と聞いたら、昔のノックオンのことです。ルール全体の基本はラグビーのルール初心者向けの記事で詳しく解説しています。
Q1全力で走りながら真横にパス。投げた手は後ろへ動いたが、ボールは走る勢いで地面に対して少し前に進んだ。これはスローフォワード?答えを見る
2026年版の英語の定義は「パスする選手の腕が前に動いたらスローフォワード」と、投げる腕の動きで説明しています。手が真横〜後ろへ振り抜かれていれば、走る勢いでボールが前に流れて見えても、定義の文言どおりならスローフォワードの条件には当たりません。ただし最終的に判定するのはレフリー。投げ終わりに指先が受け手(真横か後ろ)を指していれば、疑われる場面はぐっと減ります。
場面で使い分ける、主なパスの種類
結論は「近くはフラットやポップ、遠くはスピン」。試合ではスピンパスだけでなく、距離と状況に合わせてパスを使い分けます。まずは下の5つを知っておけば十分です。
| パス | 回転 | 距離 | 使う場面 |
|---|---|---|---|
| スピンパス | あり | 中〜長 | バックスのライン攻撃。外の味方まで速く正確に届けたいとき |
| フラットパス(回転なし) | なし | 短〜中 | すぐ隣の味方へ。回転をかけない分、取りやすく素早く出せる |
| ポップパス | なし | 短 | 近くを走り込んでくる味方へ、ボールを浮かせるように渡す |
| スクラムハーフのパス | あり | 中〜長 | ラックやスクラムから、地面のボールを拾い上げずにそのまま投げる |
| オフロードパス | なし | 短 | タックルを受けながら、倒れる前に片手や両手でつなぐ |
スクラムハーフのパスは、World Rugby Passportでは「clearing pass」として整理されています。低く安定した姿勢で入り、右に投げるなら右足をボールの横へ置き、頭をボールの上に保って、地面から受け手まで拾う・投げるの2動作に分けず一続きで「掃く」ように送り出す。投げ終わりは両手が受け手を指します。持ち上げてから投げるクセがあると、その分だけ相手が前に出てきます。
オフロードについても、Passportは「タックルの前に正面から当たらず、体の横で受けるように足を使う」「腕をタックルの高さより上で自由にしておく」「倒れる前にサポートを見つけてパスする」「味方がいなければ、地面に着いたらボールを置く(プレゼント)」と段階を示しています。無理なオフロードはターンオーバーのもと。投げられないときは置くまでがセットです。
よくある失敗と直し方
失敗の原因は、ほとんどが持ち方・狙い・体の向きのどれかです。症状から逆算して直しましょう。
腕を大きく振りかぶってしまう
時間がかかるうえ、相手に投げる方向を読まれます。ボールを腰の近くまで引いたら、そこから真横に押し出すだけで十分届きます。
ボールが回転しない・縦に揺れる
手のひらで持っているか、最後に指先が抜けていないことがほとんどです。持ち方を見直し、投げ終わりまで後ろの手の指先がボールに触れ、最後に指先から抜けているかを確認しましょう。前の手が強く押しすぎて、後ろの手とケンカしているケースもあります。前の手は「添えるだけ」。
パスが後ろにそれる
受け手の体を狙っているか、自分の体が横に流れています。狙いは「走り込む先」。足は前に向けたまま投げる意識を持つと直ります。
投げ終わりの手が前を向いている
スローフォワードを取られやすいフォームです。投げ終わりに指先が自分の進む方向(前)を指していたら、押し出す向きがずれています。指先は受け手を指して終わる。片ひざ立ちのパスで確認すると、腕の向きだけに集中できます。
投げたあとに止まる
投げたら終わりではありません。World Rugby Passportも基本のパスの最後に「パスしたら受け手をサポートする」を入れています。すぐにサポートに走ると、次のパスや、タックルされた味方のフォローにつながります。
一人でもできる練習、二人でやる練習
パスは回数がものを言います。短い距離で正しい形を何度も繰り返し、形が保てる範囲で距離を伸ばす。これが基本の順番です。
- 寝転んで真上にスピンパス(一人)仰向けになり、真上にスピンパスを投げて自分でキャッチします。ボールがまっすぐ上がってまっすぐ落ちてくれば、回転の軸がそろっている証拠。手首と指の使い方だけに集中できます。
- 壁パス(一人)壁から3〜5mほど離れ、壁の同じ場所を狙って左右交互に投げます。跳ね返りを取る練習にもなります。
- 片ひざ立ちのパス(二人)二人とも片ひざをついて向かい合い、上半身だけで投げ合います。腕ではなく押し出しと指で投げる感覚がつかめます。
- 歩きながら→走りながら(二人以上)横に並んで歩きながら投げ合い、慣れたらジョギング、ダッシュへとスピードを上げます。受け手は必ず手を前に出して的を作りましょう。
回数と距離は、たとえば次のように組めます。下の数字は出典のある基準ではなく、1回15〜20分で回せる組み方の一例です。チームの指導方針や体力に合わせて増減してください。
| メニュー | 距離の目安 | 回数の目安 | チェックすること |
|---|---|---|---|
| 寝転び真上パス | 真上 | 左右各20回 | ボールがぶれずに真上へ上がり、真下に落ちるか |
| 壁パス | 3〜5m | 左右各20回 | 壁の同じ場所に当たるか。投げ終わりの指先 |
| 片ひざ立ちパス | 5m | 左右各10回 | 腕を振らず、押し出しだけで届くか |
| 歩き→走りながら | 5m→10m→15m | 各距離で左右各5往復 | 受け手の「走り込む先・胸の高さ」に届くか。前に投げていないか |
最初は5m、慣れたら10m、15mと距離を伸ばします。遠くに投げようとして形が崩れるなら、距離を戻すのが上達の近道です。練習前の体の準備はWorld Rugbyのウォームアップ「Activate」の記事で詳しく紹介しています。
小学生・中高生・大人で、パス練習はどう変える?
いちばん大きな違いはボールの大きさです。日本ラグビーフットボール協会の年齢別ラグビーでは、年代ごとにボールのサイズや人数、コートの広さが決められています(2026年10月時点の協会サイトより)。
| 年代(日本協会の区分) | 人数 | ボール |
|---|---|---|
| 未就学児(3〜6歳)・小学校低学年(7〜8歳) | 5人 | 3号球(公式戦はタグラグビー) |
| 小学校中学年(9〜10歳) | 7人 | 3号球または4号球 |
| 小学校高学年(11〜12歳) | 9人 | 4号球 |
| 中学生(13〜15歳) | 12人 | 5号球 |
| 高校生(16〜18歳)・19歳以上 | 15人 | 5号球 |
小学生:まずは「取れるパス」と両手キャッチ
手が小さいうちは、無理にスピンをかけるより、年代に合ったサイズのボールで、受け手が取りやすいパスを投げることを優先します。低学年はタグラグビーが中心なので、走りながら横の味方に渡す回数そのものが練習になります。受け手が両手を前に出して的を作る習慣は、この年代でつけておくと後でずっと効きます。
中高生:5号球で「速く・正確に」を両側で
中学生から5号球になり、大人と同じ大きさのボールを扱います。この年代は左右どちらにも同じ質で投げられるかが分かれ目。苦手な側の回数を多めにし、歩き→ジョギング→ダッシュとスピードを上げても形が崩れないかを確認します。スクラムハーフやスタンドオフなど、ポジションごとに求められるパスの違いはポジションと役割の記事で掘り下げています。
大人:短時間でも毎回「正しい形」を確認
社会人やクラブで練習時間が限られるなら、寝転び真上パスと壁パスのように一人でできるメニューを家や公園で続けるのが効率的です。久しぶりに投げると、肩より先に指先の感覚が落ちています。短い距離から入り、投げ終わりの指先を毎回確認しましょう。
パスは、ラグビーでいちばん回数の多いプレーのひとつです。そしていちばん、練習した分だけ裏切らないスキルでもあります。「押して、転がして、指さす」。そして投げ終わりの指先は、前ではなく受け手へ。今日の練習から、この意識だけ持って投げてみてください。キックでボールを前に運ぶ方法はキックの種類と蹴り方の記事で解説しています。
よくある質問
ラグビーのパスは前に投げてもいいの?
いいえ。World Rugbyの競技規則(2026年版)第11条で、前方へのパス(スローフォワード)は相手ボールのスクラム、故意ならペナルティです。パスは真横か後ろへ投げ、前へ進むのは走るかキックで行います。
スピンパスとスクリューパスは違うもの?
同じものです。ボールの長い軸を中心に回転をかけて遠くまでまっすぐ飛ばすパスで、英語ではspiral passと呼ばれます。World Rugby Passportでは、ボールの長い軸を水平から約30度傾け、後ろの手で力と回転を、前の手で方向を与えるとしています。
パスはどこを狙えばいい?
受け手が走り込む先の、胸の高さです。今いる受け手の体を狙うと、走っている受け手の後ろにボールがずれます。受け手が両手を前に出して的を作ると、さらに狙いやすくなります。
小学生は何号のボールで練習すればいい?
日本ラグビーフットボール協会の年齢別ラグビーでは、未就学児と小学校低学年が3号球、中学年が3号球または4号球、高学年が4号球、中学生以上が5号球です(2026年10月時点)。普段の練習も、試合で使う号数に合わせるのが基本です。
一人でできるパス練習はある?
あります。仰向けで真上にスピンパスを投げて自分で取る「寝転び真上パス」と、壁から3〜5m離れて同じ場所を狙う「壁パス」が代表的です。どちらも左右両方の手で行い、投げ終わりの指先が狙った場所を指しているかを確認します。
参考(いずれも2026年10月1日確認):World Rugby「Laws of the game Rugby Union 2026」(英語版PDF)/World Rugby「2026 ラグビー憲章を含む 競技規則」(日本語版PDF)/World Rugby Passport「Law 11 Knock forward or throw forward」/World Rugby Passport「Passing the ball」/「Spiral pass」/「Receiving the ball」/World Rugby Passport「Clearing pass」/「Passing out of the tackle」/日本ラグビーフットボール協会「年齢別ラグビー」/日本ラグビーフットボール協会「(通達)競技規則の改正について」
