タックルが決まって、2人がもつれて倒れる。その直後に笛。テレビの字幕は「ノット・リリース・ザ・ボール」。次の場面ではほぼ同じ絵なのに「ノット・ロール・アウェイ」。何が違うのか、スタンドで首をかしげた経験がある人は多いはずだ。
答えはシンプルで、笛を吹かれた“人”が違う。ボールを持っていた選手なのか、タックルした選手なのか、あとから来た選手なのか。ブレイクダウン(タックル後のボール争奪局面)の反則は、この「誰が」で整理すると一気に見通しがよくなる。
- ノット・リリース・ザ・ボール=タックルされた選手がボールを離さない反則(競技規則14.7a)
- ノット・ロール・アウェイ=倒れた選手がボールや相手の前からどかない反則(14.5c、14.7b、15.15など)
- ジャッカルが許されるのは「立っている」「自陣側から来た」「ラックができる前に手をかけた」の3条件がそろったとき
- 倒れた選手はボールに触れない。これが「オフフィート」系の反則の共通ルール
条文はワールドラグビーの競技規則(2026年9月時点の英語版)を基準にしている。日本語版とは条の枝番号がずれている箇所があるので、原文で確認したい人は英語版を見てほしい。
Contents 目次
違いは“誰が”笛を吹かれたか
タックルが起きた瞬間、そこには3種類の選手がいる。タックルされた選手、タックラー、そしてボールを奪いに(守りに)来たその他の選手だ(14.4)。それぞれに「やらなければならないこと」が決まっていて、それを怠ると反則になる。
| 誰が | やるべきこと | 怠ったときの主な反則名 | 条文 |
|---|---|---|---|
| タックルされた選手 | ただちにボールを離す・パスする・後ろへ押し出す | ノット・リリース・ザ・ボール | 14.7a |
| タックルされた選手 | ボールから離れる、または立ち上がる | ノット・ロール・アウェイ | 14.7b・14.7c |
| タックラー | 倒れたら、ただちにボールとボールキャリアを離す | ノット・リリース・ザ・タックルドプレーヤー | 14.5b |
| タックラー | ただちに相手とボールから離れる、または立ち上がる | ノット・ロール・アウェイ | 14.5c |
| タックラー | 立ってからボールをプレーする | オフフィート(ノット・ロール・アウェイ扱いのことも) | 14.5d |
| あとから来た選手 | 立ったままプレーする・自陣側から入る | オフフィート/サイドエントリー | 14.8b・14.8c |
| ラック形成後の全員 | 手でボールを扱わない | ハンド・イン・ザ・ラック | 15.11 |
ざっくり言えば、「離さない」のがノット・リリース、「どかない」のがノット・ロール・アウェイ。ボールを抱えたまま倒れているのがタックルされた側なら前者、倒れたまま相手の近くに居座っているのがタックラーなら後者だ。
ノット・リリース・ザ・ボールは“持っていた側”の反則
タックルされて地面に倒されたボールキャリアは、ただちにボールをプレーできる状態にしなければならない。方法は3つ。離す、パスする、前以外の方向へ押し出す。置く方向はどこでもいい(14.7a)。
現場の感覚でいうと、ここで効いてくるのが「ボールプレースメント」だ。倒れながら体をひねり、味方側(自陣側)へ腕を伸ばしてボールを置く。これができれば、味方のサポートが先にボールの上に立てる。逆に、体が相手側を向いたまま倒れると、ボールは相手ジャッカラーの目の前に転がる。
では、いつ「離していない」と判定されるのか。キーワードは「ただちに(immediately)」。何秒という数字は条文にない。レフリーが見ているのは、倒れたあとにボールを抱え込んでいるか、そして相手が立った状態でボールに手をかけていたか。サポートが遅れて孤立したボールキャリアが、相手のジャッカルに捕まって笛を吹かれる。観戦中に一番よく見るノット・リリースはこの形だ。
ノット・ロール・アウェイは“どかなかった側”の反則
一方のノット・ロール・アウェイ。英語の「roll away」は「転がって離れる」。倒れている選手が、ボールや相手の前からどかない反則だ。
対象になるのは主にタックラー。タックルして一緒に倒れたら、ただちにボールと相手を離し、離れるか立ち上がらなければならない(14.5b・14.5c)。タックルした側がそのまま相手の体の上や、ボールと味方の間に寝そべっていると、攻撃側のボールが出てこない。これが典型的なノット・ロール・アウェイだ。
タックルされた側にも同じ義務がある。ボールを置いたあとはボールから離れるか立ち上がる。ボールの上や近くに横たわって相手が奪うのを邪魔してはいけない(14.7b・14.7c)。さらにラックができたあとも、地面に倒れている選手はボールから離れようとしなければならない(15.15)。
見分けるコツは、笛のあとにレフリーがどちらのチームにペナルティを与えたかを見ることだ。攻撃側にペナルティが出たなら、多くはタックラー側の反則(ノット・ロール・アウェイやオフフィート)。守備側にペナルティが出たなら、ボールキャリア側の反則(ノット・リリース・ザ・ボール)の可能性が高い。
同じ“もつれた2人”の笛でも、ペナルティを得たのが攻撃側なら「タックラーがどかなかった」、守備側なら「ボールキャリアが離さなかった」が基本線。タックラーは「倒したら即どく」、ボールキャリアは「倒れたら即離す」。義務が同時に発生するから、先に守ったほうが得をする。ブレイクダウンは、倒れたあとの1秒の奪い合いだ。
ジャッカルが“取っていい”のはどんなとき?
ノット・リリースの笛を引き出すのが、ジャッカル(倒れたボールキャリアからボールを奪うプレー)だ。これが正当と認められるには、条件がそろっている必要がある。
- 立っているボールをプレーするときは両足で立っていなければならない(14.8b)。膝をついた瞬間、それはオフフィートの反則になる。
- 自陣側から入る自分のチームのトライライン方向からタックルに到着してからプレーする(14.8c)。横から割り込むのはサイドエントリー。
- ラックの前に手をかけるラックが形成されたら、手でボールを扱えない。ただしラックができる前に立った状態でボールに手をかけていた場合は別(15.11)。
もうひとつ見落とされがちなのが、タックラー自身のジャッカルだ。タックラーは、ボールと相手を離して立ち上がり、ラックができていなければ、自陣側からボールをプレーしてよい(14.6)。タックルして、立って、すぐに奪う。一人で二度おいしいこのプレーができる選手は、どのチームでも重宝される。ジャッカルの技術面はジャッカルのルールとコツを解説した記事で詳しく書いた。
逆にジャッカラーを守る側の注意点もある。2024年7月の改正で、立っているジャッカラーを横に転がしたり、ねじって倒したりする“クロコダイルロール”が明確に禁止された(9.20d・14.8e)。押して後ろへ運ぶのはOK。脚をつかんで押すのもOK。でも転がす、引く、ねじるはペナルティだ。体重を浴びせる、下肢を狙うのも禁止されている(9.20e)。
オフフィートは「倒れたらボールに触るな」
ノット・リリースとノット・ロール・アウェイの周りには、「オフフィート」と呼ばれる反則群がある。原則はひとつで、競技は立っている選手だけで行われる(第13条の原則)。
具体的にはこうだ。
- タックラーは立ってからボールをプレーする(14.5d)
- あとから来た選手は立ったままプレーする。地面に倒れた状態でボールをプレーしたり、タックルしようとしたりしない(14.8b・14.8d)
- ボールを持たずに倒れている選手は、プレーに参加できない(13.3)
- 立っている選手は、倒れている選手の上に倒れ込まない(13.4)。ラックから出てきたボールの上に倒れ込むのも反則(15.16d)
日本語の実況で「倒れ込み」「オーバー・ザ・トップ」と呼ばれるのは、主にこの13.4や15.16dの場面だ。ボールの向こう側に倒れ込んで、相手のボール出しをふさぐ。わざとでなくても、結果としてふさげば笛が鳴る。
Q1タックルが成立し、タックラーは倒れたままボールキャリアの上に乗っている。そこへ別の守備側選手が立ったまま入ってきて、ボールに手をかけた。まだラックはできていない。笛が鳴るとしたら、どちらの反則?答えを見る
笛が鳴るとしたら、倒れたままのタックラーのノット・ロール・アウェイ(14.5c)が本命。立ったまま自陣側から入ってきた選手が、ラック形成前にボールへ手をかけるのは正当なジャッカル(14.8b・14.8c・15.11)。ボールキャリアが離さなければ、逆に攻撃側がノット・リリース・ザ・ボール(14.7a)を取られることもある。実際の判定は、タックラーがどいたかどうか、レフリーがアドバンテージを見るかどうかで変わる。アドバンテージの考え方はアドバンテージの解説記事で。
観戦中の早見表:笛の“主語”を探せ
ここまでの内容を、スタンドやテレビの前で使える形に縮めた。笛が鳴ったら、まずペナルティがどちらに出たかを見て、次に倒れている選手を探す。
| 見えた光景 | ありそうな反則 | ペナルティを得る側 |
|---|---|---|
| 倒れたボールキャリアが両腕でボールを抱えたまま、相手が上から引っ張っている | ノット・リリース・ザ・ボール | 守備側 |
| タックラーが倒れたまま、相手の上や、ボールと攻撃側サポートの間にいる | ノット・ロール・アウェイ | 攻撃側 |
| タックラーが立ち上がらないまま、ボールに手を伸ばす | オフフィート | 攻撃側 |
| ラックができているのに、手でボールをかき出そうとする | ハンド・イン・ザ・ラック | 相手側 |
| 横からラックに入ってボールに絡む | サイドエントリー(オフサイド) | 相手側 |
| ボールの向こう側へ倒れ込み、出口をふさぐ | 倒れ込み(オーバー・ザ・トップ) | 相手側 |
ブレイクダウンまわりは、ルールの運用も少しずつ変わっている。2025年1月からは、ラックに参加している(していた)選手が、ラックの1メートル以内でボールを出そうとしている相手に手を出すことを禁じる規定が、世界的試験実施ルールとして入った(15.18)。SH(スクラムハーフ)を守るための改正だ。
2026年6月には、SHがラックの最後尾の足より前に出て手でボールを動かす行為について、ワールドラグビーが公式の解釈を出した。条文をそのまま読めば引っかかりうるが、争奪がはっきり終わっていてボールが確保されているなら、実質的な反則は生じていない。そうした判断で、試合の継続を優先するというものだ。ボールが明らかに確保されたら、できるだけ早く「ユーズイット」をコールするよう、レフリーにも改めて求めている。
ブレイクダウンの笛は、ラグビーのなかでも一番わかりにくい。でも「離さない」「どかない」「立っていない」の3つを頭に入れておくだけで、見え方はまるで変わる。倒れた選手の中で、誰が義務を果たさなかったのか。ジャッカルで生きるFL(フランカー)たちの系譜はフランカーの記事に、ルール全体の腕試しはルールクイズ20問にまとめてある。次の試合では、笛の“主語”を探しながら見てほしい。
参考:World Rugby 競技規則 第14条 タックル/第15条 ラック/第13条 オープンプレーにおいて地面に横たわっているプレーヤー/Law changes(2024年7月)/Clarification 2-2026
