ラグビー好きが2人いれば、だいたい2つに割れる。FW(フォワード)派か、BK(バックス)派か。スクラムの押し合いにしびれるのか、外で抜け出すウイングに立ち上がるのか。飲み会でこの話題を出すと、終電を逃す。
そこで今回は、本気で10番勝負をやってみた。体格、食事、練習、痛さ、目立ち方、そしてモテ。勝敗はすべて書き手の独断だ。ただし、数字を出すところは日本代表の公式データを使った。異論は大歓迎。
- 日本代表(2026年PNC登録メンバー)で比べると、FWはBKより平均で約12センチ高く、約23キロ重い
- 10番勝負の結果は、5勝5敗……ではなく、最後の1番で決着がつく
- 体を張る量ならFW、試合を決める瞬間の多さならBK。どちらも欠けたら15人制は成立しない
そもそもFWとBKの役割がよくわからない、という人はポジションと役割の基本から読んでほしい。ざっくり言えば、1〜8番がFW、9〜15番がBK。FWはスクラムやラインアウト、ボール争奪で球を獲る係、BKはその球を走ってつないでトライにする係だ。
前で押すか、外で駆けるか。FWは「俺たちが球を獲らなきゃ始まらない」と言い、BKは「獲った球をトライにするのは俺たちだ」と言う。どちらも正しい。だから決着がつかない。今日はそこに、あえて白黒をつける。
Contents 目次
第1〜3番勝負:体と胃袋と練習メニュー
第1番「体格」──FWの圧勝
まずはデータから。日本ラグビーフットボール協会が公表している、アサヒスーパードライ パシフィックネーションズカップ2026の日本代表登録メンバー30人(FW18人、BK12人)の身長・体重を平均してみた。
| 人数 | 平均身長 | 平均体重 | |
|---|---|---|---|
| FW | 18 | 188.3cm | 111.9kg |
| BK | 12 | 176.6cm | 88.7kg |
| 差 | − | 約11.7cm | 約23.3kg |
FWでいちばん大きいのはハリー・ホッキングスの208センチ・124キロ。BKでいちばん小柄なのは齋藤直人の165センチ・73キロ。同じチームの同じジャージを着た2人で、身長差は43センチ、体重差は51キロある。こんな競技、ほかにあまりない。
- ポジション
- LO(ロック)
- 生年・出身
- 1998年生まれ
- 所属
- 東京サントリーサンゴリアス
身長208cm・体重124kg。出典:日本ラグビーフットボール協会 PNC2026登録メンバー
- ポジション
- SH(スクラムハーフ)
- 生年・出身
- 1997年生まれ
- 所属
- 東京サントリーサンゴリアス
身長165cm・体重73kg。出典:日本ラグビーフットボール協会 PNC2026登録メンバー
判定は文句なしでFW。ただし、BKの平均88.7キロも一般人から見れば十分に大きい。そこは誤解のないように。
第2番「食事量」──FWの勝ち
ここはデータなしの独断。体重110キロを維持するのは、それ自体が練習だ。現場では「食べるのも練習」とよく言われる。どんぶり飯を何杯もおかわりするのは、たいていFWの席。BKも食べるが、FWの食卓は量の桁が違う、というのが経験者の共通認識だろう。FWの勝ち。
第3番「練習メニューのきつさ」──引き分け
FWはスクラムの組み合い、モールの押し合い、ラインアウトのリフト。首と背中と脚を全部使う。BKはスプリント、キック、パス。反復のダッシュで肺がちぎれそうになる。きつさの種類が違うだけで、どちらも楽ではない。これは引き分けにしておかないと、両方から怒られる。
ひとつ付け加えると、練習の“最後”にやらされるメニューで派閥の性格が出る。FWはスクラムマシンを押して終わり、BKはダッシュを繰り返して終わる。どちらも最後の1本で一番声が出る。経験者なら、あの夕暮れのグラウンドの空気を思い出すはずだ。
第4〜6番勝負:痛さ、目立ち方、頭脳
第4番「痛さ」──FWの勝ち(勝ちたくはない)
スクラムでは両側と前から押され、ラックでは上から踏まれそうになり、モールでは誰かの肘が脇腹に入る。コンタクトの回数そのものが、FWは圧倒的に多い。BKは一発の衝撃が大きい。スピードに乗った状態でぶつかるからだ。ただ、試合が終わったあとに首と肩がどうなっているかを比べれば、FWに軍配が上がる。うれしくない勝利だが。
ひとつだけ真面目に書いておく。頭を打った、ふらついた、という場面は、FWでもBKでも関係なく、その場で試合から外れるのがルールだ。競技規則でも、脳振とうの疑いがある選手はただちに、そして完全にフィールドから退くと定めている(3.24、「Recognise and Remove」)。痛さ自慢はしても、頭のケガだけは我慢しない。これは両派共通の約束にしたい。
第5番「目立ち方」──BKの勝ち
トライを取って、両手を上げて、スタンドが揺れる。ハイライト映像の最初に映るのは、たいていBKだ。ウイングが大外を駆け抜ける場面の華やかさは、どうしても押し合いの絵より伝わりやすい。FWのトライはゴール前のモールや、ラックのすぐ横の力技が多く、気づいたら終わっている。BKの勝ち。
ただ、FW派にも言い分はある。ゴール前5メートルのラインアウトからモールを組んで、じわじわ押し込むトライ。あれは8人全員の作品で、スタンドのFW経験者だけが異様に盛り上がる。派手さでは負けても、玄人の拍手の大きさなら負けていない。とはいえ、勝負は勝負。ここはBKに譲る。
第6番「頭脳」──引き分け
司令塔といえばSO(スタンドオフ)とSH。蹴るか、回すか、FWを当てるか。1秒ごとに判断を求められる。一方で、ラインアウトのサインを組み立てるのはFW、特にLO(ロック)とHO(フッカー)の仕事だ。スクラムでも、どちらの足をどう置くかという駆け引きが続いている。頭を使う場所が違うだけ。これも引き分け。
第7〜9番勝負:モテ、泥、結束
第7番「モテ」──BKの勝ち(たぶん)
ここに根拠のあるデータは存在しない。完全に偏見で判定する。ユニフォームが汚れにくく、髪型が崩れにくく、トライの場面で映る。よってBK。FW派からの抗議はコメント欄で受け付ける。
第8番「ユニフォームの汚れ」──FWの圧勝
雨の試合のあと、ジャージの色がわからなくなっているのはだいたいFWだ。スクラムで地面に近い位置にいて、ラックでは芝に顔をつける。泥の量ならFWの圧勝。洗濯をする家族の苦労も含めて、FWに1勝。
第9番「結束力」──FWの勝ち
スクラムは8人が一体にならないと押せない。モールも同じ。1人がサボれば全員が崩れる構造なので、自然と仲が深くなる。「FWの8人は家族」という言い方を、経験者なら一度は聞いたことがあるはずだ。BKも連携の競技だが、体をくっつけて同じ方向に押す一体感は、FWならではの特権と言っていい。
BK派から「こっちはサインプレーの呼吸で結束している」と反論が来そうだ。確かに、SOとCTB(センター)が目を合わせただけで同じ動きを選べる関係は美しい。ただ、試合後の打ち上げでいつまでも同じテーブルに固まっているのは、たいていFWのほうだ。ここはFWに1勝。
第10番勝負と、元ラガーマンの結論
ここまでの成績を整理する。
| 勝負 | 勝者 |
|---|---|
| 第1番 体格 | FW |
| 第2番 食事量 | FW |
| 第3番 練習のきつさ | 引き分け |
| 第4番 痛さ | FW |
| 第5番 目立ち方 | BK |
| 第6番 頭脳 | 引き分け |
| 第7番 モテ | BK |
| 第8番 ユニフォームの汚れ | FW |
| 第9番 結束力 | FW |
FWの5勝2敗2分け。……いや待て。項目の選び方がFW寄りすぎる、という声が聞こえる。その通りだ。書き手がFW目線に偏っていることは認める。
第10番「試合を決める瞬間」──BKの勝ち
最後の1番は、あえてBKに渡したい。どれだけFWが球を獲っても、最後にゴールラインを越えるのはBKであることが多い。接戦の終盤、1本のラインブレイク(防御ラインを突破するプレー)、1本のタックル、1本のキックが勝敗を分ける。その場面の主役は、多くの場合BKだ。
特にFB(フルバック)とウイングは、最後尾で相手の独走を止める役目も背負っている。抜かれたら終わり、という状況で1対1のタックルに入る。あの場面の緊張感は、FWが味わう種類のものとはまた違う。点を取るのも、最後に止めるのも、BKの仕事になりやすい。
最終成績はFWの5勝3敗2分け。結論はFW派の勝ち。異論は認める。
でも本当の結論は別のところにある。ラグビーでは、FWが獲った球をBKがトライにし、BKが蹴った陣地でFWがまた球を獲る。どちらか片方では、1点も取れない。体重100キロを超える選手と70キロ台の選手が、同じジャージで同じ目標に向かう。この“違う体の人間が役割を分け合う”ところこそ、ラグビーという競技の一番の魅力だと思う。
自分がどちらに向いているかは、ポジション診断で掘り下げる。FWとBKでスパイクの選び方がどう違うかはスパイクの記事に、ルールの腕試しはラグビールールクイズ20問にまとめてある。FWの最前線の話ならプロップの記事もどうぞ。
参考:日本ラグビーフットボール協会 15人制男子日本代表 チーム・選手/ハリー・ホッキングス 選手プロフィール/齋藤直人 選手プロフィール/World Rugby 競技規則 第3条 チーム
