2023年ワールドカップ決勝、南アフリカ対ニュージーランド。12-11で南アフリカが逃げ切ったこの試合で、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたのはトライを取った選手でもキッカーでもなかった。フランカーのピーターステフ・デュトイ。記録したタックルは28回。フランカーという仕事の本質は、この数字にほとんど詰まっている。
- フランカー(6番・7番)はスクラム3列目の両端。誰より早くボールに絡み、誰より多くタックルするのが仕事
- オープンサイド/ブラインドサイドは競技規則の言葉ではなく、スクラムの“広い側/狭い側”を受け持つ役割分担のこと
- 名手は「タックル型」「ジャッカル型」「キャリー型」に分けると見やすい。マコウ、デュトイ、ポーコック、コリシ、リーチ マイケルらがそれぞれの型の代表格
- 日本はリーチ マイケル(95キャップ)の後ろに、下川甲嗣、ベン・ガンター、ティエナン・コストリーらが続く
Contents 目次
6番と7番、何が違う?
フランカーはスクラムの3列目、ナンバーエイトの両脇に1人ずつ入る。競技規則第19条では、フロントローとロック以外の選手は「ロックの体に少なくとも片腕でバインドする」(19.7d)。そして組み始めたバインドは、スクラムが終わるまで保たなければならない(19.11d)。つまりフランカーは、ボールがスクラムの中にある間は勝手に離れられない。ボールが出た瞬間に飛び出す。その一瞬の反応が、フランカーの腕の見せどころになる。
「オープンサイド」「ブラインドサイド」という言葉は、実は競技規則には出てこない。スクラムを組んだ位置から見て、グラウンドの広い側がオープン、タッチラインに近い狭い側がブラインド。フランカーはどちらか一方を受け持つのが一般的で、試合中はスクラムの位置によって左右を入れ替える。
| オープンサイド | ブラインドサイド | |
|---|---|---|
| 受け持つ側 | グラウンドの広い側 | タッチラインに近い狭い側 |
| 求められやすい資質 | スピード、ボールへの嗅覚、ジャッカル | 体の強さ、キャリー、ラインアウトでの高さ |
背番号との対応は、チームや国によって違う。7番をオープンサイドに置くチームが多いが、2015年ワールドカップの日本戦では、南アフリカが7番のデュトイをブラインドサイドで起用していた。背番号より、スクラムのどちら側に立っているかを見た方が役割はわかりやすい。
ブレイクダウンでボールを奪う「ジャッカル」が反則にならない条件は、ジャッカルのルール解説に詳しく書いた。
タックル型:誰よりも多く止める
ピーターステフ・デュトイ(南アフリカ)
冒頭の28タックルの男。2019年と2024年にWorld Rugbyの年間最優秀選手(男子15人制)を受賞し、ワールドカップは2019年、2023年と連覇を経験している。もともとはロックもこなしていた長身で、高さのあるフランカーが80分間タックルし続けるのだから、相手からすればたまらない。リーグワンではトヨタヴェルブリッツに在籍し(2025-26シーズン)、日本でもそのタックルを見られる。
実は2015年9月の“ブライトンの奇跡”でも、南アフリカの7番はデュトイだった。このときは後半途中に交代し、代わりに入ったのが若き日のシヤ・コリシ。日本が歴史を変えた試合のピッチに、のちの世界最高のフランカー2人が立っていたことになる。
石塚武生(日本)
日本のタックル型を語るなら、この人を外せない。石塚武生さん。國學院久我山高校から早稲田大学に進み、4年時に主将を務めた。社会人はリコー、のちに伊勢丹。1974年から1983年にかけて日本代表で28キャップを重ね、代表でも主将を任されている。ついた愛称が「タックルマン」。引退後は早稲田大学の監督、U19日本代表の監督などを歴任し、2009年、57歳で亡くなった。
ジャッカル型:倒れた瞬間に奪う
リッチー・マコウ(ニュージーランド)
フランカーの歴代最高を1人選ぶなら、多くの人がマコウの名前を挙げるだろう。オールブラックスで148キャップ、うち110試合で主将。2011年と2015年のワールドカップを主将として連覇し、World Rugbyの年間最優秀選手には2006年、2009年、2010年と3度選ばれた。主にオープンサイドでプレーし、タックルした直後に起き上がってボールに絡む速さは、レフリーとの“ぎりぎりの線”を知り尽くした職人芸だった。
デビッド・ポーコック(オーストラリア)
ワラビーズ83キャップ。低い姿勢でボールに覆いかぶさり、相手に「ノット・リリース・ザ・ボール」の反則を取らせる。ジャッカルの名手として、世界にその名を知られた選手だ。2016年からはパナソニック(現・埼玉パナソニックワイルドナイツ)でプレーし、2019年ワールドカップ後に代表を引退。その後はオーストラリアの上院議員に転身した。ラグビー選手のセカンドキャリアとしても異色の存在だ。
キャリー型:前に出て流れを変える
シヤ・コリシ(南アフリカ)
2018年にスプリングボクス初の黒人主将となり、2019年と2023年のワールドカップを連覇。2大会連続で優勝した主将は、マコウとコリシの2人しかいない。フランカーとしてはボールを持って前に出る力と、接点での働きのバランスがいい。キャリーでゲインライン(攻守の境目となる仮想の線)を越え、チームを前へ押し出すタイプだ。
リーチ マイケル(日本)
日本のフランカーといえば、この人しかいない。ニュージーランドのクライストチャーチ生まれ。15歳で札幌山の手高校に留学し、東海大学を経て2011年から東芝でプレー。2014年にエディー・ジョーンズHCから日本代表主将に指名され、2015年大会では南アフリカ撃破、2019年日本大会ではアイルランドとスコットランドを破って初のベスト8に導いた。ワールドカップは2011年から2023年まで4大会出場。日本代表95キャップはJRFUの歴代2位(2026年8月6日時点)で、首位の大野均の98まで、あと3に迫っている。
- ポジション
- FL(フランカー)
- 生年・出身
- 1988年・ニュージーランド
- 代表キャップ
- 95(JRFU公式・2026年8月6日時点)
W杯2011〜2023の4大会出場。出典:JRFU、World Rugby
ちなみにブライトンの南アフリカ戦で、日本の3列目は6番リーチ、7番マイケル・ブロードハースト、8番ヘンドリック・ツイという並びだった。ブロードハーストは代表26キャップ、ツイは47キャップ(いずれもJRFU公式)。相手の3列目はデュトイ、フランソワ・ロウ、シャルク・ブルガー。世界屈指のバックローを相手に、日本は最後まで体を当て続けた(ツイは後半の早い時間に、No.8の記事で取り上げるアマナキ・レレイ・マフィと交代)。フランカーの仕事は、スコアボードには残らない。でも、あの試合の勝利はたしかに3列目の足元から生まれていた。
タックル型派は「フランカーの価値は止めた数。相手の攻撃を80分削り続ける選手がいないと、どんなアタックも報われない」。キャリー型派は「3列目がボールを持って前に出られるチームは、それだけでバックスに余裕が生まれる」。ジャッカル型は両者の“いいとこ取り”に見えて、実は一番リスクが高い。個人的な好みは、デュトイのようなタックル型。地味な数字で試合を決める選手に一番しびれる。
2026年、日本の3列目は“混戦”
2026年の日本代表で、フランカーを主戦場にする選手を並べてみる。
| 選手 | 所属(2026年) | 型のイメージ | キャップ |
|---|---|---|---|
| 下川甲嗣 | 東京サントリーサンゴリアス | ワークレート(仕事量) | 25 |
| ベン・ガンター | 埼玉パナソニックワイルドナイツ | タックル | 20 |
| ティエナン・コストリー | コベルコ神戸スティーラーズ | タックル+走力 | 14 |
| 姫野和樹 | トヨタヴェルブリッツ | キャリー+ジャッカル | 36 |
※キャップ数はJRFU公式一覧(2026年8月6日時点)。「型のイメージ」はJ SPORTS日本代表選手名鑑の紹介文をもとにした編集部の分類。姫野はパシフィックネーションズカップ2026の登録メンバー外。
下川甲嗣は早稲田大学3年で大学日本一を経験し、サンゴリアスでは実質1年目からフランカーの定位置をつかんだ。2022年10月29日のニュージーランド戦で代表デビューし、2023年ワールドカップにも出場。本人の言葉が、このポジションの生き方をよく表している。
プレーの連続性、しつこさで勝負しないと— 下川甲嗣(J SPORTS 日本代表選手名鑑より)
ベン・ガンターはタイ生まれ、オーストラリア育ち。2021年10月23日、母国オーストラリアとの試合で日本代表デビューした。195cm・120kgの体でタックルを重ねる。ティエナン・コストリーは岡山のIPU環太平洋大学からコベルコ神戸スティーラーズへ。リーグワン2025-26シーズンにはベストタックラーとベストフィフティーンを同時受賞。2024年6月22日のイングランド戦で初キャップを得た。
そして姫野和樹。2021年にニュージーランドのハイランダーズでスーパーラグビーに挑み、スーパーラグビー・アオテアロアの新人賞に選ばれた。ワールドカップは2019年と2023年に出場。ボールを持てば前に出て、倒れた相手からボールをもぎ取る。キャリーとジャッカルを両方こなす日本では貴重なタイプだ。ナンバーエイトもこなすので、No.8の記事でも取り上げる。
フランカーは、ボールを持つ回数より、体を当てる回数で評価されるポジションだ。タックルして、起き上がって、また走る。マコウもデュトイもリーチも、そのくり返しを誰よりも速く、誰よりも多くこなしてきた。次に試合を見るときは、6番と7番が何回倒れて、何回起き上がったかを数えてみてほしい。自分のタックルの入り方を見直したい人はタックルのコツの記事もどうぞ。
参考:World Rugby 競技規則 第19条 スクラム/World Rugby Awards 2025(world.rugby)/JRFU 15人制男子日本代表 チーム・選手/J SPORTS 下川甲嗣 選手名鑑/J SPORTS ティエナン・コストリー 選手名鑑/J SPORTS トヨタヴェルブリッツ チーム紹介/石塚武生(Wikipedia)
