1987年、第1回W杯の準決勝。フランスとオーストラリアが24-24で並んだ終盤、フランスは何人もの手を経てボールをつなぎ、最後はフルバックのセルジュ・ブランコがコーナーに飛び込んだ。30-24。「最後の砦」のはずの15番が、決勝点を奪った瞬間だった。フルバック(FB)は、守りの最後尾から攻撃の起点へ。その役割がどう変わってきたのかを、世界と日本の名手でたどる。
- FBの仕事は「最後の砦としての守備」「ハイボールの処理」「カウンターアタックの起点」の3つ
- かつては守備とキックの人、今は攻撃の司令塔も兼ねる「もう一人の10番」になりつつある
- 世界ではブランコ、クリスチャン・カレン、ダミアン・マッケンジーがその変化を象徴する
- 日本では五郎丸歩、山中亮平、松島幸太朗。2026年は松永拓朗、矢崎由高らが15番を争う
Contents 目次
15番は、誰より孤独な場所に立つ
フルバックは背番号15。チームの一番後ろに、たった一人で立つ。ポジション全体の役割はポジションと役割の記事で紹介したが、FBほど「一人で背負う」場面が多いポジションはない。
- 最後の砦防御ラインを破られたとき、最後に立ちはだかるのがFB。ここで止められなければトライ。言い訳のきかない一対一だ。
- ハイボールの処理相手が蹴ってきたハイパントやロングキックを捕る。落とせばピンチ、捕ればチャンス。捕り方はハイボールキャッチの記事で詳しく解説する。
- カウンターアタックの起点捕ったボールを蹴り返すか、持って走るか。相手の防御が整っていなければ、そこから一気に反撃に出る。
守備では、後ろからチーム全体の並びを見て「右が薄い」「前に出すぎ」と声をかける役目もある。一番後ろにいるからこそ、フィールド全体が見える。FBは守備の司令塔でもあるわけだ。
「守る人」から「攻める人」へ
FBの役割は、時代とともに大きく変わってきた。昔のFBは、何より守備とキックの人だった。ハイボールを確実に捕り、タッチに蹴り出して陣地を戻す。攻撃に加わることはあっても、あくまで脇役だった。
変化の流れを作ったのは、後ろから走り込んで攻撃に厚みを加える「ランニングFB」の登場だ。相手のキックを捕ったら、蹴り返さずに走る。BKラインに入り込み、余った一人として外で勝負する。そして現代では、FBが10番の代わりにボールを受け、パスやキックで攻撃を組み立てる場面も珍しくなくなった。スタンドオフの経験がある選手がFBを務めることが増えたのも、その流れの一つだ。
| 時代 | FBに求められたもの | 象徴的な選手 |
|---|---|---|
| 1980年代 | 守備に加え、後方からの大胆なカウンター | セルジュ・ブランコ |
| 1990年代後半〜2000年代 | ランで防御を切り裂く「ランニングFB」 | クリスチャン・カレン |
| 2010年代〜現在 | 10番もこなす「第2の司令塔」 | ダミアン・マッケンジー |
世界の伝説の15番
セルジュ・ブランコ(フランス)――華麗なる反撃の元祖
- ポジション
- FB(15番)
- 生年・出身
- 1958年・ベネズエラ
- 所属
- ビアリッツ(引退)
- 代表キャップ
- フランス代表93キャップ(うちFBで81)
出典:Wikipedia英語版
ブランコはベネズエラのカラカスで生まれ、フランスのビアリッツで育った。1980年から1991年までフランス代表で93キャップ、そのうち81試合をFBとして戦った。
ブランコのFBは、とにかく大胆だった。自陣の深い位置でボールを捕っても、蹴らずに走り出す。そこから味方がつながり、フィールドの反対側までボールが運ばれていく。冒頭の1987年W杯準決勝、オーストラリア戦の決勝トライは、まさにその象徴だった。フランスらしい「シャンパン・ラグビー」を最後尾から体現した選手で、1997年に国際ラグビー殿堂、2011年にはIRB殿堂入りを果たしている。
クリスチャン・カレン(ニュージーランド)――走るFBの完成形
- ポジション
- FB(15番)
- 生年・出身
- 1976年・ニュージーランド
- 所属
- 引退(2007年)
- 代表キャップ
- NZ代表テスト58試合で46トライ
出典:Wikipedia英語版
「ランニングFB」の完成形として名前が挙がるのが、クリスチャン・カレンだ。1996年6月のサモア戦でオールブラックスにデビューし、いきなりハットトリック。育った町の名前から「パエカカリキ・エクスプレス」の愛称で呼ばれた。
テストマッチ58試合で46トライ。FBとしては驚異的な数字だ。相手のキックを捕ってから一気にトップスピードに入り、防御の隙間を縫っていく。守備の人だったFBを、トライを量産するポジションに変えた選手と言っていい。キャリアの終盤はアイルランドのマンスターに移ったが、肩のケガに悩まされ、2007年に引退した。
ダミアン・マッケンジー(ニュージーランド)――10番もこなす現代型
- ポジション
- FB(15番)/SO(10番)
- 生年・出身
- 1995年・ニュージーランド
- 所属
- チーフス
- 代表キャップ
- NZ代表74キャップ(2026年4月時点)
出典:Wikipedia英語版
現代型FBの代表が、ダミアン・マッケンジーだ。174cm、75kgとラグビー選手としては小柄だが、ステップとスピード、そして何より判断の速さが武器。FBとスタンドオフの両方をこなし、2026年4月時点でオールブラックス74キャップを重ねている。
日本のファンにとっては、2022年に東京サントリーサンゴリアスでプレーしたことも記憶に新しい。後方からボールを受けて自ら仕掛け、パスでもキックでも攻撃を動かす。まさに「もう一人の10番」としてのFBを体現している。所属はスーパーラグビーのチーフスだ。
FBに一番求めるものは何か。守備派は「最後の一人が止められなければ、どれだけ攻撃が良くても試合には勝てない」と言う。ハイボールを確実に捕り、一対一で絶対に抜かれない。それがFBの本分だ、と。カウンター派は「相手のキックはチャンスの贈り物。そこで走れないFBでは、今のラグビーでは点が取れない」と返す。理想は両方だが、どちらに比重を置くかで、そのチームの哲学が見えてくる。
日本の15番の系譜
五郎丸歩――2015年、世界がその名を知った
- ポジション
- FB(15番)
- 生年・出身
- 1986年・福岡県
- 所属
- ヤマハ発動機ジュビロ(2021年引退)
- 代表キャップ
- 日本代表57キャップ(テスト通算711得点)
出典:Wikipedia日本語版
日本のFBといえば、多くの人がまず五郎丸歩を思い浮かべるだろう。日本代表57キャップ、テスト通算711得点。2015年W杯イングランド大会では1トライ、7ゴール、13ペナルティゴールで計58得点を挙げ、大会のベスト15にも選ばれた。
その中でも、南アフリカを破った試合での24得点は特別だ。キックを蹴る前、両手を体の前で合わせる独特のルーティンは、大会後に日本中で真似された。あの試合がどれほどの意味を持ったかは、ブライトンの奇跡の記事でも振り返る。
五郎丸は守備でも最後尾から体を張り、キックでは陣地も得点も稼いだ。いわば「守備とキックの人」という、伝統的なFB像の到達点のような選手だった。2021年に現役を引退している。
山中亮平――長いキックと遅咲きの輝き
山中亮平は大阪出身。早稲田大学から2011年に神戸製鋼(現コベルコ神戸スティーラーズ)へ入り、14年間在籍した。2019年W杯日本大会では15番としてチームのベスト8進出を支え、2023年W杯では最初の選考から外れたものの、負傷者が出たことで追加招集されている。
長身から繰り出すロングキックと、後方からのライン参加が持ち味。ベテランになってからも存在感を増し続けた、遅咲きの15番だ。2025年に神戸を離れて浦安D-Rocksに移り、37歳で迎えた2025-26シーズンもリーグワン1部でFBとして出場を重ねた。
松島幸太朗――ウイングとFBを行き来する万能型
松島幸太朗は南アフリカのプレトリアで生まれ、東京で育った。桐蔭学園高校時代の100m独走トライは今も伝説として語られる。2014年に日本代表デビューし、2015年W杯の南アフリカ戦ではフル出場。2019年W杯では開幕戦のロシア戦でハットトリックを決めた。
ウイングでもFBでも世界と戦える、しなやかさと力強さを兼ね備えたランナー。キックを捕ってからのカウンターは、まさに現代型FBのそれだ。ウイングとしての松島についてはウイングの記事でも触れた。現在は東京サントリーサンゴリアスに所属している。
Q1五郎丸歩が2015年W杯で挙げた得点は、大会を通して何点?答えを見る
答えは58点。1トライ、7ゴール(コンバージョン)、13ペナルティゴールの合計。このうち24点が、南アフリカ戦で挙げたものだった。
2026年、日本代表の15番は誰か
2026年の日本代表では、FBの椅子をめぐる争いが続いている。8月8日に花園で行われたオーストラリア戦では、東芝ブレイブルーパス東京の松永拓朗がFBで先発した。天理大学ではスタンドオフとして大学日本一を経験し、東芝ではFBとしてもプレー時間を増やしてきた選手。まさに「10番もこなすFB」だ。2026年8月24日時点で10キャップ。
同じ試合のリザーブには、早稲田大学の矢崎由高が入った。2026年4月から、W杯2027の開催地オーストラリアに留学し、スーパーラグビー出場にも挑戦した。テストマッチのメンバー入りは2025年秋の欧州遠征以来だった。
PNCに向けた宮崎(大阪)合宿メンバー(8月24日発表、9月16日更新)には、SOとFBをこなすサム・グリーンも入り、PNC決勝のフィジー戦では15番で先発した。オーストラリアのブリスベンで育ち、2016年に来日。静岡ブルーレヴズではSOを主戦場にFBもカバーし、2026-27シーズンはJR東日本グリーンウォリアーズ東葛に所属。2026年8月24日時点で7キャップ。
松永、グリーンと、SOの経験がある選手がFB候補に並ぶのは、現代型FBの流れそのものだ。そこに矢崎のような、ランで違いを作れる若い15番がどう絡んでいくか。W杯2027まで、この争いから目が離せない。
最後の砦は、今や最初の一手でもある
ブランコが自陣から走り出し、カレンがトライを量産し、マッケンジーが10番の仕事まで引き受けた。日本では五郎丸がキックで世界を驚かせ、山中が長い足で試合を動かし、松島がランで違いを作った。FBは、守りの最後尾から攻撃の起点へ。役割は広がったが、最後の一人として背負う重さは変わらない。
最後の砦は、誰より孤独だ。だからこそ、そこで光る選手はいつの時代も主役になる。
参考:Serge Blanco(Wikipedia)/Christian Cullen(Wikipedia)/Damian McKenzie(Wikipedia)/五郎丸歩(Wikipedia)/山中亮平、14年を過ごした神戸Sと対峙へ(スポーツナビ)/8.8オーストラリア戦のメンバー発表(ラグビーリパブリック)
