2026年9月19日、秩父宮。15-15で迎えた後半32分、サミソニ・トゥアがインゴールに飛び込んだ瞬間、スタンドの空気が一段跳ね上がった。日本がフィジーを20-15で下し、パシフィックネーションズカップを制したトライだ。ラグビーには、こういう“鳥肌の一瞬”がいくつもある。トライだけじゃない。タックル一発、ジャッカル一回、キック一本で、スタジアムが揺れる。元ラガーマンの独断で、しびれるプレーを10個選んだ。順位は完全に好みだ。異論は認める。
- ラグビーの“しびれる瞬間”は、トライ以外にもタックル、ジャッカル、スクラム、キックと、あらゆる局面にある
- 1位は「ラストプレーの逆転トライ」。2015年W杯、ブライトンでの南アフリカ戦(34-32)は、いまも基準になる場面だ
- 初心者は「点が入る瞬間」だけでなく、「点が入らなかった瞬間」(トライを止めたタックル、ボールを奪ったジャッカル)に注目すると一気に面白くなる
- 各プレーのルールや技術は、ラガサプ!の解説記事へのリンクから深掘りできる
Contents 目次
選び方のルール
選ぶ基準は3つだけ。①その瞬間に試合の流れが変わるか、②スタジアムの音が変わるか、③やった選手の“覚悟”が見えるか。派手さより、この3つを重視した。試合の日付とスコアは、日本ラグビーフットボール協会(JRFU)の記録と、W杯の公式記録をまとめた資料で確認したものだけを書いている。
ルールがまだあやふやな人は、先にルール初心者向けの解説を読んでおくと、ここからの話がすっと入ってくるはずだ。
10位〜6位:観るほど好きになる“職人の一瞬”
10位 ハイボールキャッチ(空中戦の競り勝ち)
高く蹴り上げられたボールに、両チームの選手が同時に跳ぶ。胸でがっちり抱えて着地した瞬間、味方ベンチが立ち上がる。地味に見えて、キック合戦の多い現代ラグビーでは試合の主導権そのものだ。膝を上げて体を守り、声で「俺が取る」と宣言する。コツはハイボールキャッチのコツで書いた。
9位 50:22キック
自陣から蹴ったボールが、相手陣22メートルラインの内側でバウンドしてタッチラインを割る。成功すれば、自分たちのボールでラインアウト(タッチライン際でのボール投げ入れ)が始まる。蹴った瞬間はまだ半信半疑、バウンドが外に切れた瞬間に「来た!」となる時間差がたまらない。成立条件は50:22の解説で。
8位 ゴール前スクラムで押し勝つ
相手ゴール前5メートル。16人が組み合って、じりじりとインゴールへ動いていく。スクラムで相手を崩し、ペナルティを奪った瞬間にFW8人が拳を突き上げる光景は、FWをやったことがある人間ならたまらない。ボールキャリアが一人もいないのに、スタジアムが一番盛り上がる数少ない場面だ。組み方の基本はスクラムの組み方で。
7位 トライセービングタックル
抜け出した相手を、最後の最後で後ろから追いついて倒す。ゴールライン目前でボールを抱え込ませない。トライを「取る」プレーではなく「取らせない」プレーだ。点は入らないのに、スコアボード以上に試合を変える。2025年5月31日のリーグワン3位決定戦では、フッカーの佐藤健次が前半17分にトライセービングタックルを見せたとラグビーリパブリックが書いている。フッカーの佐藤については佐藤健次の記事で。
6位 ジャッカル
タックルで倒れた相手のボールに、立ったまま手を伸ばして奪い取るプレー。成功すればレフリーの笛とともに反則(ノット・リリース・ザ・ボール)を取り、攻守がひっくり返る。決まった瞬間の「うおおっ」という地鳴りは、トライに負けていない。取れる条件と反則になる条件はジャッカルのルール解説で詳しく書いた。
5位〜4位:流れを一発で変えるトライ
5位 オフロードの連鎖から生まれるトライ
オフロードとは、タックルを受けながら倒れる前にボールを味方へつなぐパスのこと。これが2本、3本と続くと、ディフェンスは整う暇がない。2019年W杯、10月13日の日本対スコットランド戦(28-21)で、プロップの稲垣啓太が決めた前半26分のトライは、つなぎの連続の終点だった。フロントローの選手がゴールに飛び込む、というのもまたしびれる。
4位 ボールをもぎ取っての独走
相手が持っているボールを奪い、そのまま走り切る。守りから攻めへの切り替えが一瞬で起きる。同じスコットランド戦で、福岡堅樹は前半40分と後半3分に2トライ。2本目は、相手が抱えたボールをもぎ取っての独走として記憶されている。守っていたはずの側が、次の瞬間にはトライを取っている。この“ひっくり返し”の速さが、ラグビーの一番の醍醐味かもしれない。
3位〜1位:時計が止まって見える瞬間
3位 終了間際の同点コンバージョン
トライで2点差に迫り、あとはゴールキックが決まれば同点。キッカーがボールを置き、スタジアム全体が静まる。2007年W杯、9月25日の日本対カナダ戦(ボルドー)では、ロスタイムに平浩二がトライを挙げ、大西将太郎のコンバージョンで12-12の引き分けに持ち込んだ。キックは、ラグビーで唯一「全員が1人を見守る」時間。キックの種類と蹴り方も合わせてどうぞ。
2位 接戦の勝ち越しトライ
同点、もしくは数点差の終盤。ここで取るトライは、1本で試合を決める。2019年W杯、9月28日のアイルランド戦(19-12)では、途中出場の福岡堅樹が後半19分(59分)にトライを挙げて逆転。田村優のコンバージョンとペナルティゴールで突き放した。
そして冒頭のトゥア。2026年9月19日のPNC決勝は、後半25分にフィジーが15-15に追いついた直後だった。JRFUの試合記録によれば、後半32分にトゥアのトライで20-15。これが決勝点になり、日本は優勝した。
1位 ラストプレーの逆転トライ
これを超えるものはない。2015年9月19日、W杯イングランド大会のブライトン。日本は南アフリカに29-32でリードされたまま、最後の攻撃に入った。ペナルティを得た日本は、ゴールを狙って同点にする道ではなくスクラムを選び、攻め続けた。最後はカーン・ヘスケスがインゴールに飛び込み、34-32。ヘスケスのトライは後半40分を過ぎたラストプレーで、コンバージョンはなかった。
引き分けではなく勝ちを取りにいった判断、それを最後までやり切った15人。「しびれる」の意味を、日本中に教えた一瞬だった。あの日のメンバーのその後は“ブライトンの奇跡”の日本代表は今でたどっている。
| 順位 | プレー | 本記事で挙げた例 | スコア |
|---|---|---|---|
| 1 | ラストプレーの逆転トライ | 2015年9月19日 W杯 南アフリカ戦 | 34-32 |
| 2 | 接戦の勝ち越しトライ | 2019年9月28日 W杯 アイルランド戦/2026年9月19日 PNC決勝 | 19-12/20-15 |
| 3 | 終了間際の同点コンバージョン | 2007年9月25日 W杯 カナダ戦 | 12-12 |
| 4 | ボールをもぎ取っての独走 | 2019年10月13日 W杯 スコットランド戦 | 28-21 |
| 5 | オフロードの連鎖 | 同上 | 28-21 |
| 6 | ジャッカル | — | — |
| 7 | トライセービングタックル | 2025年5月31日 リーグワン3位決定戦 | 17-22 |
| 8 | ゴール前スクラム | — | — |
| 9 | 50:22キック | — | — |
| 10 | ハイボールキャッチ | — | — |
スコアは日本(2025年5月31日はワイルドナイツ)側から見たもの。6位と8〜10位はプレーそのものの魅力で選んだため、特定の試合は挙げていない(表中の「—」)。
初心者が“鳥肌”に出会うための観戦のコツ
ランキングを見てわかるとおり、しびれる瞬間の半分は「点が入らない場面」だ。初めてスタジアムに行く人は、ボールだけを目で追いがちだが、次の3つを意識すると観戦の解像度が上がる。
- タックルの後、ボールの上を見るタックルが決まった直後、倒れた選手のボールに誰が手を伸ばしているか。そこでジャッカルが起きる。
- ゲインラインを意識するゲインラインとは、攻撃が始まった地点を結ぶ見えない線。ボールキャリアがこの線を越えたか押し戻されたかで、次のプレーの優劣が決まる。
- スコアと時間をセットで見る「残り5分で3点差」なら、ペナルティでゴールを狙うのか、トライを狙うのか。選択そのものがドラマになる。
タックルの面白さはタックルのコツで、プレーの反則が絡む場面はアドバンテージの解説で、それぞれ深掘りできる。
Q12015年W杯の南アフリカ戦、日本の最後のトライを決めた選手は誰?答えを見る
答えはカーン・ヘスケス。途中出場から、後半40分を過ぎたラストプレーでトライを決めた。スコアは34-32。この試合、日本のトライはリーチ マイケル、五郎丸歩、ヘスケスの3本で、残りは五郎丸のゴールキックだった。
ラグビーの一番の見どころは、点が入る瞬間か、点を防ぐ瞬間か。トライは誰が見てもわかる興奮があり、タックルは経験者ほど唸る。どっちが上かという話は、きっと一生決着がつかない。FWとBKの“どっち派”論争はFW派?BK派?論争でもやっている。
W杯2027はオーストラリアで開かれる。次に日本中が鳥肌を立てる瞬間は、きっとそこで生まれる。そのときどのプレーで立ち上がるか、今から想像しておくのも悪くない。
参考:JRFU 代表キャップ対象試合一覧/JRFU PNC2026決勝 試合記録/2015 Rugby World Cup Pool B(Wikipedia英語版)/2019 Rugby World Cup Pool A(Wikipedia英語版)/2007 Rugby World Cup Pool B(Wikipedia英語版)/ラグビーリパブリック(2025年6月1日)
