タックルのあと、立ち上がるのが一拍遅い。本人は「大丈夫です」と言う。そこで次の一手を迷う指導者や保護者は多いはずだ。脳震盪からの復帰には、日本ラグビーフットボール協会(JRFU)が年代ごとに決めた「最短日数」と、そこへ至る「順番」がある。この記事を読み終えるころには、受傷した日から何日目に何をしてよいか、誰の許可が要るかを、カレンダーの上で判断できるようになる。
- JRFUの規定(2026年10月時点)では、試合復帰の最短は中学生以下が受傷日から23日目、高校生・高専生が21日目、18歳以上のコミュニティ(大学・社会人・クラブ)が原則21日目。
- 18歳以上でも、脳振盪の既往がなく、SCAT5/6のベースラインがあり、受傷36〜48時間後の再検査で悪化がないなど条件をすべて満たした場合に限り、最短14日目の復帰が認められている。
- World Rugbyの「Concussion Guidance」(2024年8月版)は、成人・18歳以下とも最短21日を基準とし、各国協会はこれより厳しくできる。
- 復帰はステージ1(休養)からステージ6(試合)まで段階を踏み、フルコンタクト練習の前には医師の許可(JRFUの証明書)が必要。
- 脳震盪の疑いが出たら、その日は練習・試合に戻らない。HIA(頭部外傷評価)による一時交代はWorld Rugbyが認めたエリートの試合だけの仕組みで、地域・学校のラグビーには適用されない。
Contents 目次
脳震盪の復帰は何日後?日本の最短は「23日・21日・14日」
答えは年代で変わる。JRFUが2022年8月26日付の通達で示し、2025年5月15日に証明書の様式を改定した現在の運用では、試合に戻れる最短日は次のとおりだ。数え方は、受傷した日を「0日目」とする。
| 区分 | 試合復帰の最短 | 条件・備考 |
|---|---|---|
| 中学生以下 | 23日目 | フルコンタクト練習の前と、試合復帰の前の2回、医師の診察 |
| 高校生・高専生 | 21日目 | 年齢に関係なく高校・高専の区分に従う。医師の診察は2回 |
| 18歳以上のコミュニティ(大学・社会人・クラブ) | 21日目 | 2週間のレスト+1週間のGRTP |
| 同上・条件をすべて満たす場合 | 14日目 | 既往なし、SCAT5/6のベースラインあり、受傷36〜48時間後の再検査で悪化なし、メディカル体制のあるチームの管理下 |
| HIA対象のエリート試合(代表戦・リーグワン等) | 7日目または12日目 | 既往やHIA3の結果で分かれる(2022年7月からのWR基準)。7日目の復帰と、既往ありの選手の復帰には独立した脳振盪コンサルタント(ICC)の承認が必要 |
ここで押さえたいのは「最短」という言葉。21日たてば自動的に戻れるわけではない。症状が残っていれば、その時点で止まる。逆に、症状が早く消えても日数は縮まらない。日数は下限で、ゴールではない。
JRFUの文書の表記は「脳振盪」。この記事では一般的な「脳震盪」を使い、書類名などは原文のままにした。
グラウンドで見分ける:迷ったら外す
判断の基準はシンプルで、脳震盪が「疑われる」だけで、その場で退場させる。World Rugbyはこれを「Recognise and Remove(気づいて、外す)」と呼び、ガイダンスでは「if in doubt, sit them out(迷ったら外す)」とも書いている。確定診断を待つ必要はない。
World Rugbyの「Concussion Guidance」(2024年8月版)は、見るべきサインを3つに分けている。
見て・聞いてすぐ分かる、はっきりしたサイン
けいれん、意識を失った(またはその疑い)、ふらつき・バランスが取れない、混乱している、場所・自分・時間が分からない、ぼんやりした目つき、感情的になる・イライラするなどの行動の変化。どれか1つでもあれば脳震盪を強く示す。
見て分かる、ほかのサイン
地面で動かない、起き上がるのが遅い、頭を抱える、そもそも脳震盪を起こしうる接触があった。冒頭の「一拍遅い」は、まさにここに入る。
本人が訴える症状
頭痛、めまい、頭に霧がかかった感じ、見え方の異常、吐き気、疲労感、眠気・集中できない、「頭が圧迫される感じ」、光や音がつらい。ガイダンスは、症状が遅れて出ることがあり、多くは受傷後48時間以内に表れるとしている。試合中に平気でも、夜や翌日に出ることがある。
確認の質問も具体的だ。成人と中高生には「今日の会場はどこ?」「今は前半?後半?」「最後に得点したのは誰?」「先週はどこと試合した?」。12歳以下には「ここはどこ?」「お昼の前?後?」「先生やコーチの名前は?」。1つでも正しく答えられなければ、強く疑う。
また、意識消失は脳震盪の10%未満でしか起きないとガイダンスは書いている。「気を失っていないから大丈夫」は通用しない。
すぐ病院へ、のサイン
次のどれかがあれば、最寄りの病院で至急の評価を受ける:強い首の痛み、意識がだんだん悪くなる(眠そうになる)、混乱やイライラが増す、強い・悪化する頭痛、繰り返す嘔吐、いつもと違う行動、けいれん、物が二重に見える、腕や脚のしびれ・脱力、ろれつが回らない。首のケガが疑われるときは、脊椎の扱いの訓練を受けた救急の専門職以外は動かさない。
受傷後の過ごし方も決まっている。最初の24時間はひとりにしない、飲酒しない、医療者の許可が出るまで車を運転しない。JRFUの安全対策委員会は、医師の指示以外の薬、特に睡眠薬を使わないことも注意として挙げている。ここから先の診断と判断は医師の仕事。指導者と保護者の役目は「外す」と「病院につなぐ」の2つだ。
GRTP(段階的競技復帰)とは?6つのステージを1段ずつ上がる仕組み
GRTPは Graduated Return to Play の略で、運動の強さを段階的に上げ、症状がぶり返さないことを確かめながらラグビーに戻る手順のこと。JRFUの資料では、ステージは次のように整理されている。
| ステージ | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 1 最初の休息 | 体と脳を休める。運転・運動をしない。画面を見る時間を最小限に。仕事や勉強を休むことも検討 | 回復 |
| 2a 症状が出ない程度の活動 | 症状が出ない範囲の日常生活(症状が24時間続いている間) | 普段の生活に戻る |
| 2b 軽い有酸素運動 | 10〜15分の軽いジョギング、水泳、低〜中強度のエアロバイク。筋トレはしない(24時間ずっと症状がないことが条件) | 心拍数を上げる |
| 3 競技に特化した運動 | ランニングドリル。頭に衝撃が加わる活動はしない | 動きを加える |
| 4 コンタクトなしの練習 | パスドリルなど複雑な練習。段階的な筋トレも可 | 運動・協調・考える負荷 |
| 5 フルコンタクト練習 | 医師の許可を得てから通常練習に参加 | 自信を取り戻し、コーチが技術を確認 |
| 6 競技復帰 | 試合でのプレー | — |
World Rugbyの2024年版ガイダンスは、2022年の国際コンセンサス(アムステルダム)にもとづく例として、ステップ2を「2A 軽い有酸素運動(最大心拍のおよそ55%まで)」「2B 中強度(およそ70%まで)」に分けている。JRFUの2aは「症状が出ない程度の日常活動」なので、同じ「2a」でも中身が違う。チームで話すときは、どちらの表を見ているかをそろえておくと混乱しない。
共通するルールは3つ。各ステップは通常24時間以上かける。ステップ4に入る前に症状がないこと。ステップ4〜6で症状が出たら、ステップ3に戻って運動しても症状が出ないことを確かめ直す。ガイダンスは、ステップ1〜3で症状がわずかに強まる程度(0〜10の尺度で2ポイント以内、1時間未満)なら許容しつつ、それを超えたら中止して翌日やり直す、としている。
年代別の日割り:受傷日から何日目に何をする?
JRFUの資料には、区分ごとの日割り表がある。カレンダーに書き込めるよう、骨組みを図にした。
高校生・高専生:21日目
0日目は完全な休養。1〜14日目は2a(症状がある間)から2b(軽い有酸素運動)へ。15日目にステージ3、16日目にステージ4。ステージ4を終えて症状がなければ医師の診察を受け、許可が出たら17〜20日目にフルコンタクト練習(最長4日)。19歳未満はステージ5を終えたあとにもう一度医師の許可を受け、21日目に試合に出られる。2025年5月改定の高校生・高専生用証明書では、1回目の診察は「受傷日から16日目以降」、2回目は「1回目から24時間以降」で、フルコンタクトに参加したことを医師が本人に確認する欄がある。
中学生以下:23日目
中学生以下はさらに慎重で、各段階に2日ずつかける。0日目は休養、1〜14日目は2a(症状が出ない程度の日常生活)、15〜16日目に2b、17〜18日目にステージ3、19〜20日目にステージ4。医師の許可を得て21〜22日目にフルコンタクト(最長2日)、もう一度医師の許可を得て23日目に試合。証明書では、1回目の診察が「16日目以降」ではなく「20日目以降」、2回目は「1回目から48時間以降」。保護者の署名欄は高校生用と同じくある。
18歳以上のコミュニティ:21日目、条件つきで14日目
大学・社会人・クラブの選手は、2週間のレストと1週間のGRTPで最短21日目が原則だ。14日目に縮められるのは、プレーヤーウェルフェアを最優先にしたメディカル体制のあるチームの管理下で、次の3つをすべて満たす場合に限られる。
- 脳振盪の既往がないJRFUの定義では、過去3か月以内の受傷、過去1年で3回以上、ラグビーを始めてから5回以上、医師に発症のしきい値が下がったと指摘された、心理的な問題を合併した、過去に回復まで21日以上かかった、のどれかに当てはまれば「既往あり」。
- SCAT5/6のベースラインがあるケガをする前に、チーム内でSCAT(スポーツ脳振盪評価ツール)を取っておく必要がある。データがなければ14日での復帰はできない。
- 受傷36〜48時間後のSCATで悪化がないメディカルスタッフが実施し、ベースラインと比べる。悪化があれば21日のプロセスに切り替える。
14日で戻る場合、脳振盪報告書・SCATの評価結果・医師の署名が入った復帰証明書を都道府県協会に出す(大会は大会側に確認)。判断はチーム(ドクター)の責任で行う、とJRFUの補足資料は明記している。
World Rugbyの「21日」と日本の「14日」、どちらが正しい?
両方とも正しい。立場が違うだけだ。World Rugbyの2024年版ガイダンスは、エリート以外のラグビーの「最低基準」で、成人も18歳以下も最短21日としている。成人に限り、脳震盪の専門医・脳画像・神経内科や前庭リハビリなどの多職種チームがそろう「アドバンスト・レベルのケア」を受け、所属協会がそれを確認し、医学的に1週間のレストが不要と助言された場合だけ、21日より早い復帰を例外として認めている。JRFUの14日ルートは、条件をつけたうえでの国内の運用だ。
年齢の線引きも少し違う。World Rugbyは18歳以下を「adolescent(青年)」、12歳以下を「child(子ども)」と定義し、各協会はこの年齢を引き上げられる(引き下げは不可)。JRFUは年齢より学校の区分を優先し、高校生・高専生は19歳でも高校生の規定、中学生以下は23日。結果として、日本の中学生以下はWorld Rugbyの最低基準より2日長い。
もうひとつ誤解が多いのがHIA。テレビで見る「HIAで一時交代、戻ってきてプレー続行」は、World Rugbyが認めたエリート成人の試合だけの仕組みで、ガイダンスは「地域のラグビーには、どのレベル・年齢でも適用されない」と太字で書いている。学校やクラブの試合で「プロは戻っているから」は通らない。
2回目の脳震盪や、回復が長引いたケースはさらに慎重になる。World Rugbyは、12か月以内に2回目の脳震盪を起こした選手や、何度も起こしている選手は、スポーツ脳震盪の経験がある医療者が管理し、医師の許可が出るまでラグビーをしないよう求めている。また、子どもと中高生は大人より脳震盪を起こしやすく、回復に時間がかかるとも書いている。
指導者・保護者のチェックリスト:受傷日から試合復帰まで
やることを時系列に並べると、こうなる。チームの救急バッグに貼っておけるくらいの粒度にした。
- その場:外す疑いがあれば即退場。その日は練習にも試合にも戻さない。首のケガが疑われたら動かさない。
- その日:病院へ・ひとりにしない危険なサインがあれば救急へ。なくても医療機関で評価を受ける。24時間はひとりにしない、飲酒・運転をしない。
- 報告するJRFUでは脳振盪または疑いが出たら報告の義務がある。2026年度からは脳振盪報告書をオンライン(フォーム)で提出する運用になっている。
- 日数を数える受傷日を0日目としてカレンダーに書く。中学生以下は23日目、高校生・高専生は21日目、18歳以上は原則21日目が最短。
- 段階を守る症状が出たら先に進まない。ステージ4以降で症状が出たらステージ3に戻る。学校の勉強や仕事の量も調整する。
- 医師の許可をもらうフルコンタクトの前に医師の診察と証明書。中学生以下と高校生・高専生は試合復帰前にもう一度。
- 復帰後も見る戻ったあとに頭痛や集中しにくさが出たら、また止める。2回目は1回目より慎重に。
予防の話も少し。World Rugbyの安全教育プログラム「Rugby Ready」は、ヘッドギアについて頭や耳の軟部組織のケガを防ぐ助けにはなるが「脳震盪を防ぐ証拠はない」と明記し、それよりタックルとコンタクトの技術が大事だとしている。ヘッドキャップの役割と選び方はヘッドキャップは必要かで、頭を下げないタックルの入り方はタックルのコツ(2026年の高さルール)で掘り下げる。首まわりの筋力づくりは首トレの記事、歯と顎を守るマウスガードはマウスガードの選び方が参考になる。
脳震盪は外から見えないケガだ。骨折ならギプスが日数を教えてくれるが、頭の中は誰にも見えない。だから日数とステージと医師の許可という「見える物差し」が決められている。数字を覚えるより先に、カレンダーに0日目を書く習慣をチームに。それだけで、焦って戻る選手はかなり減るはずだ。
日本ラグビーフットボール協会の規定(2026年10月時点)では、受傷日を0日目として、中学生以下は最短23日目、高校生・高専生は最短21日目、18歳以上の大学・社会人・クラブは原則最短21日目に試合復帰できます。18歳以上で脳振盪の既往がなく、SCATのベースラインと受傷36〜48時間後の再検査で悪化がないなどの条件をすべて満たす場合に限り、最短14日目です。いずれも症状が残っていれば延びます。 日数は短くなりません。World Rugbyのガイダンスは、成人の最短21日は症状が消えたかどうかに関係なく守るものとしています。症状がなくても段階的競技復帰(GRTP)を1段ずつ進め、フルコンタクトの前に医師の許可を受けます。 戻れません。World Rugbyは、脳震盪または疑いのある選手は練習・試合からその場で外し、その日は活動に戻さないと定めています。プロの試合で見るHIAの一時交代は、World Rugbyが認めたエリート成人の試合だけの仕組みで、学校やクラブのラグビーには適用されません。 World Rugbyの安全教育プログラム「Rugby Ready」は、ヘッドギアは頭や耳の軟部組織のケガを防ぐ助けになる一方、脳震盪を防ぐ証拠はないとしています。予防として重視されているのは、頭を下げないタックルなどのコンタクト技術です。 JRFUでは、脳振盪または疑いが出たら脳振盪報告書で報告し(2026年度からオンライン提出)、復帰の際は区分に合った「段階的競技復帰のための証明書」に医師の署名を受けます。18歳以上が14日で復帰する場合は、SCATの評価結果もあわせて都道府県協会に提出します。ラグビーで脳震盪になったら、何日で復帰できますか?
症状がすぐ消えたら、早く復帰してもいいですか?
脳震盪の疑いがあるとき、その日のうちに練習に戻れますか?
ヘッドキャップをかぶれば脳震盪は防げますか?
復帰にはどんな書類が必要ですか?
参考:World Rugby「Concussion Guidance」2024年8月版(確認日2026-10-11)/JRFU(通達)脳振盪からの「段階的競技復帰(GRTP)」改訂について(確認日2026-10-11)/JRFU「段階的競技復帰(GRTP)変更への対応について」PDF(確認日2026-10-11)/JRFU 頭部外傷、脳振盪に関する関連書式(確認日2026-10-11)/JRFU 脳振盪が疑われたら(確認日2026-10-11)/World Rugby Passport「Rugby Ready」用具・環境・緊急時計画(確認日2026-10-11)
