2026年9月12日、花園。パシフィックネーションズカップ準決勝のアメリカ戦で、日本代表の13番は前半9分と後半2分に2本のトライを挙げた。ディラン・ライリー。南アフリカで生まれ、オーストラリアでラグビーを覚え、日本で代表になった29歳だ。1週間後の決勝も13番で先発し、フィジーを20-15で下して優勝。JRFUの発表を足し上げると、キャップは46まで伸びた。W杯2027まで1年。この人がなぜ“止まらない”のかを、センターの仕事から分解してみる。
- ライリーは南アフリカ・ダーバン生まれ。10歳でオーストラリアへ移り、2017年に練習生として来日、2018年からワイルドナイツに所属する
- 初キャップは2021年10月23日のオーストラリア戦(大分)。2026年9月19日のPNC決勝まで先発を重ね、JRFUの発表をもとに数えると46キャップ
- 強みはスピードそのものより「どの角度で入るか」。外から内へ切れ込むコース取りで、タックラーの芯を外す
- 守備では外側から相手の並びを読んで声を出す役。13番の仕事は、走る量より“見る量”が多い
Contents 目次
ダーバン生まれ、ゴールドコースト育ち
経歴から整理しておく。英語版Wikipediaとラグビーリパブリックの記事によれば、ライリーは1997年5月2日、南アフリカのダーバンで生まれた。10歳ごろ(資料によっては11歳)に家族とオーストラリアへ移り、ラグビーを始めたのもオーストラリアだ。ゴールドコーストのサウスポートスクールからボンド大学へ進み、NRC(オーストラリアの国内大会)のブリスベン・シティでプレーした。JRFUの選手プロフィールには、U20オーストラリア代表の経歴も載っている。
転機は20歳のとき。2017年に練習生として初めて来日し、翌2018年に当時のパナソニック ワイルドナイツ(現・埼玉パナソニックワイルドナイツ)に入った。プロの扉は母国ではなく、日本で開いた。
英語版Wikipediaによれば、日本で3年あまりを過ごしたのち、2021年4月に日本代表でプレーする意思を表明している。同じ時期にオーストラリアからワイルドナイツに来たベン・ガンター、ジャック・コーネルセンも、いまは同じ桜のジャージーを着ている。
- ポジション
- CTB(13番)
- 生年・出身
- 1997年・南アフリカ(ダーバン)生まれ、オーストラリア育ち
- 所属
- 埼玉パナソニックワイルドナイツ
- 代表キャップ
- 46(2026年9月19日のPNC決勝終了時点。JRFU発表の45キャップ+決勝先発)
出典:日本ラグビーフットボール協会(JRFU)選手プロフィール・試合登録メンバー発表
身長187cm、体重102kg。センターとしては大きいほうだが、JRFUのプロフィールがまず褒めているのはフットワークとスピードだ。大きいのに細かく動ける。この組み合わせが、あとで書くコース取りの話につながってくる。
初キャップは“出身国”オーストラリア戦
日本代表デビューは2021年10月23日、大分でのオーストラリア戦(リポビタンDチャレンジカップ2021)。途中出場で、試合は23-32で敗れた。少年時代を過ごした国が相手の初キャップだった。
そこから5年。2023年のW杯フランス大会にも選ばれ、英語版Wikipediaの記録では日本の4試合のうち3試合で先発している。国内ではリーグワンのベストフィフティーン(CTB)に2024-25シーズンまで4季連続で選ばれ、トップリーグ最後の2021シーズンにもベスト15に入っている。代表とリーグの両方で、13番の“標準装備”になった選手だ。
ゴールキッカーではないので、代表での得点はほぼすべて自分で持ち込んだトライだ。2026年もタウンズビルのオーストラリア戦で1本、花園のアメリカ戦で2本と、トライを重ねている。日本とアメリカの通算の対戦成績は日本対アメリカの対戦成績で整理している。
2026年、13番は全部この人だった
今季のテストマッチを並べると、ライリーの立ち位置がはっきり見える。JRFUの試合記録で確認できたものをまとめた。
| 日付 | 相手(大会) | スコア | ライリー |
|---|---|---|---|
| 7月4日 | イタリア(ネーションズチャンピオンシップ) | 27-10 ○ | 13番先発 |
| 7月11日 | アイルランド(同・ニューカッスル) | 20-36 ● | 13番先発、前半で退く |
| 7月18日 | フランス(同・国立) | 15-42 ● | 13番先発、チーム初トライをアシスト |
| 8月8日 | オーストラリア(花園) | 32-35 ● | 13番先発 |
| 8月15日 | オーストラリア(タウンズビル) | 17-56 ● | 13番先発、1トライ |
| 9月5日 | カナダ(新潟) | 57-12 ○ | 13番先発 |
| 9月12日 | アメリカ(PNC準決勝・花園) | 63-14 ○ | 13番先発、2トライ |
| 9月19日 | フィジー(PNC決勝・秩父宮) | 20-15 ○ | 13番先発 |
7月の3連戦はラグビーリパブリックの記事、8月以降はJRFUの試合記録とオーストラリア協会の試合リポートで先発を確認した。8月15日、タウンズビルでのオーストラリア戦(17-56)では前半33分にトライも挙げている。2026年のテストマッチ8試合すべてで13番を背負ったことになる。
ほぼフル稼働。エディー・ジョーンズHCの日本代表で、アウトサイドCTB(13番)は“ライリーの席”になっている。12番は廣瀬雄也、サミソニ・トゥアと顔ぶれが変わっても、13番だけは動かない。
“止められない”の正体は、角度と目
ここからは元ラガーマン目線の分析だ。ライリーの走りを見ていると、単純に速い選手とは少し違う。
外から内へ、「深い角度」で入る
13番は外側のスペースを突くポジションだと思われがちだが、ライリーのトライやラインブレイクは、外から内へ角度をつけて切れ込む形が多い。パスをもらう前に一度外へ膨らみ、ボールが来る瞬間に内へ向きを変える。
2026年3月21日のリーグワン第12節、リコーブラックラムズ東京戦(31-7)のブレイクがまさにそれだった。ラグビーリパブリックの記事によれば、深い角度からパスコースへ走り込み、大柄なタックラーの脇の隙間を抜けて約40メートルを駆け抜けて、チーム3本目のトライを演出している。
ハンドオフは“止まるため”ではなく“進むため”
ハンドオフ(ボールを持っていない腕でタックラーを押しのける技)も武器のひとつ。ただ、ライリーの使い方は相手を突き飛ばすというより、タックラーとの距離を保って足を止めないためのものに見える。腕を伸ばして相手の肩を一瞬押さえ、そのあいだに体を外へ逃がす。102kgの体でそれをやられると、1人目のタックルはまず決まらない。
そして捕まったときの粘りがある。JRFU公式チャンネルには「2人がかりのタックルを耐え」てトライした場面の動画も上がっている。倒れる前にもう半歩前に出る。ゲインライン(攻防の境目)を越えるかどうかは、この半歩で決まる。
守備の13番は「見る」ポジション
ライリーのもう一つの顔が守備だ。JRFUのプロフィールでも、守備範囲の広さが評価されている。7月のフランス戦でも、ラグビーリパブリックは広いエリアをカバーしたと書いていた。
13番の守備は、一番難しい部類に入る。外にはWTBとFBがいて、内には12番がいる。相手が外に数的優位を作ってきたとき、前に出て潰すのか、外へ流して時間を稼ぐのか。その判断を最初に下すのが13番だ。ライリー自身、リーグワンの試合後にこう話している。
外側から相手のアタック——陣形、次になされるプレー——がよく見えることが多くあります。内側の選手とのコミュニケーションは、自分の大きな仕事です。— ディラン・ライリー(ラグビーリパブリック、2026年3月27日)
同じ試合では、ブレイクダウン(ボール争奪の密集)に2人目の防御役として絡み、ターンオーバー(攻守交代)にもつなげている。外で走るだけでなく、内に寄って球を奪いに行ける。「走れるセンター」ではなく「全部やるセンター」だ。
センターの2人は似て見えて役割が違う。12番はコンタクトで前に出て次のフェーズの起点を作り、13番は外のスペースとタックラーの隙間を突く。ライリーは13番の“角度”を突き詰めたタイプ。一方で102kgあるので、12番の仕事をこなせる場面も多い。あなたはどっちのセンターが好きか。詳しくはセンター(CTB)の特徴と世界・日本のすごい選手で。
ケガと、芽生えた「欲」
順風満帆だったわけではない。2025-26シーズンは第3節で手を痛め、復帰は第11節まで待った。ワイルドナイツは2025-26シーズンを3位で終えたが、ライリー自身は第4節から第10節までをスタンドの側から見ていたことになる。
その期間について、本人は「プレーできてない間は試合に出られることがどれだけよいことだったかを思い返す」ようになったと話している(ラグビーリパブリック)。代表では若手の支え役も任された。7月の取材ではこう語っている。
自分はこのチームに長くいるほうなので、若い選手をしっかり支える。— ディラン・ライリー(ラグビーリパブリック、2026年7月24日)
2026年の日本代表は、明治大学の伊藤龍之介が10番、関西学院大学の大塚壮二郎が1番と、学生も先発する若いチームだ。そのなかで13番の29歳は、キャップ数でも経験でも“上から数えたほうが早い”側にいる。
Q1ライリーが初めて日本代表のジャージーを着た試合の相手はどこ?答えを見る
答えはオーストラリア。2021年10月23日、大分でのリポビタンDチャレンジカップ2021に途中出場した。10歳から暮らした国が初キャップの相手で、2026年8月にもオーストラリアとの2連戦を戦っている。2戦目の舞台は、本人の地元にあたるクイーンズランドだった。
W杯2027、“地元”で13番を背負う意味
2027年のW杯はオーストラリアで開かれる。ライリーにとっては、ラグビーを始めた国に戻る大会だ。7月の取材では、オーストラリアで日本代表のジャージーを着ることを「本当に特別」と言い、こう続けた。
ラグビーを始めたのがオーストラリアで、それを伸ばしてくれたのが日本という位置づけですから。— ディラン・ライリー(ラグビーリパブリック、2026年7月24日)
いまの日本代表で、13番の代わりは簡単には見つからない。コース取りで抜き、ハンドオフで前に出て、守っては外から声で並びを整える。W杯の日本戦を想像すると、13番の欄にはまずこの名前を書きたくなる。メンバー予想はW杯2027 日本代表メンバー予想33人で詳しくやっている。
センターというポジションの基本はポジションと役割で書いた。歴代の日本代表に入れるならどこか、という話は歴代最強の日本代表XVで遊んでいるので、あわせてどうぞ。
南アフリカで生まれ、オーストラリアで楕円球を覚え、日本で代表になった。国をまたいだキャリアの行き先が、2027年のオーストラリアにつながっている。13番が本当に試される舞台は、あと1年後だ。
参考:JRFU 選手プロフィール ディラン・ライリー/JRFU PNC2026決勝 試合登録メンバー/JRFU PNC2026準決勝 アメリカ戦 試合記録/ラグビーリパブリック(2026年7月24日)/ラグビーリパブリック(2026年3月27日)/Wikipedia(英語版)Dylan Riley
