ニュージーランドのマア・ノヌーとコンラッド・スミスは、2013年9月のアルゼンチン戦で、センターコンビとして50試合目のテストマッチを迎えた。当時の世界記録だ。12番と13番は、同じ「センター」でも仕事が違う。そして、2人の間に言葉にならない連携が生まれたとき、BKラインは一段上の生き物になる。この記事では、センター(CTB)の役割を分解し、世界と日本の名手を「12番と13番の組み合わせ」という視点で語る。
- 12番(インサイドセンター)は「当たって前に出る+第2の司令塔」、13番(アウトサイドセンター)は「外のスペースを読む+防御の要」
- 世界最高の13番はブライアン・オドリスコル、最高のコンビはノヌー&コンラッド・スミス、と推したい
- 日本は平尾誠二から、ラファエレ&中村亮土、そしてディラン・ライリーへと系譜がつながる
- 2026年9月時点、日本代表のセンターはライリー、長田智希、廣瀬雄也、サミソニ・トゥアらが競う
Contents 目次
12番と13番は「似て非なる」
センターは背番号12と13。スタンドオフ(10番)の外側に並ぶ2人だ。ポジション全体の役割はポジションと役割の記事で紹介したが、センターの面白さは、隣り合う2人の仕事がはっきり違うところにある。
| 12番(インサイドセンター) | 13番(アウトサイドセンター) | |
|---|---|---|
| アタック | 強く当たってゲインラインを越える。10番の隣で「第2の司令塔」としてパス・キックも担う | 外のスペースを見つけ、ウイングを生かす。スピードとステップで抜く |
| ディフェンス | 相手の強いランナーを正面から止める | 外側の広いスペースを任され、防御ラインの読みが問われる |
| 求められる資質 | 体の強さ、判断、パス・キックの技術 | スピード、空間把握、コミュニケーション |
ざっくり言えば、12番は「内側で体を張る」、13番は「外側で空間を読む」。特に13番の守備は難しい。攻撃側が外に余った人数を作ってきたとき、前に出て潰すのか、流して外に追い込むのか。判断を一つ間違えれば即トライにつながる。現場では「13番の守備ができる選手は、ラグビーがわかっている」とよく言われる。
組み合わせで考えると、センターはもっと面白い
センターは2人で1セット。だから「誰が一番うまいか」だけでなく、「誰と誰を組ませるか」で語ると一気に面白くなる。よくあるパターンは次の3つだ。
- パワー×スピード型12番が強く当たって防御を内に引きつけ、13番が外で走る。最もオーソドックスな組み合わせ。
- 司令塔×フィニッシャー型12番がパスやキックでゲームを組み立て、13番が決める。10番の負担を軽くできる。
- ダブル・ランナー型両方が突破力を持ち、どちらに渡しても脅威になる。防御側は的を絞れない。
世界の名センター
ブライアン・オドリスコル(アイルランド)――13番の完成形
- ポジション
- CTB(13番)
- 生年・出身
- 1979年・アイルランド
- 所属
- レンスター(2014年引退)
- 代表キャップ
- アイルランド代表133キャップ(46トライ)、ライオンズ8キャップ
出典:Wikipedia英語版
13番の歴代最高を一人選べと言われたら、筆者はオドリスコルを挙げる。アイルランド代表133キャップ、46トライはアイルランド歴代最多。ライオンズには2001年、2005年、2009年、2013年と4度の遠征に参加し、2005年のニュージーランド遠征では主将を務めた。
名を上げたのは2000年、パリでのフランス戦でのハットトリック。アイルランドにとって1972年以来のパリでの勝利だった。2009年にはシックス・ネーションズでグランドスラム(全勝優勝)を達成。アイルランドにとって61年ぶりの快挙だった。身長175cmとセンターとしては大きくないが、ボールを持てば抜け、持たなければ誰よりも速く危険を察知する。攻守両面で「13番とはこういうものだ」と示した選手だ。
ノヌー&コンラッド・スミス(ニュージーランド)――最強の12・13コンビ
- ポジション
- CTB(12番)
- 生年・出身
- 1982年・ニュージーランド
- 所属
- トゥーロン(2026年6月退団)
- 代表キャップ
- NZ代表103キャップ
出典:Wikipedia英語版
- ポジション
- CTB(13番)
- 生年・出身
- 1981年・ニュージーランド
- 所属
- 引退
- 代表キャップ
- NZ代表94キャップ
出典:Wikipedia英語版
コンビとしての最強を選ぶなら、この2人しかいない。12番のノヌーは、ドレッドヘアをなびかせて突っ込む圧倒的なパワーランナー。13番のコンラッド・スミスは、派手さはないが、防御の読みと判断が抜群に正確な頭脳派。まさに「パワー×頭脳」の組み合わせだった。
2人は2011年と2015年のW杯連覇をともに経験した。2015年の決勝、オーストラリア戦ではノヌーが約50mを独走してトライを奪い、34-17の勝利に貢献している。コンラッド・スミスは法律家の資格を持つ異色の選手で、引退後は選手会や強化の仕事に携わった。ノヌーは40代になってもフランスのトゥーロンでプレーを続け、2026年6月、44歳で同クラブを退団した。
日本の名センターは「考える12番」から始まった
平尾誠二――日本ラグビーの知性
日本のセンターを語るとき、平尾誠二を避けては通れない。京都の伏見工業高校で主将として全国制覇。同志社大学ではセンターとして史上初の大学選手権3連覇に貢献し、神戸製鋼では日本選手権7連覇という黄金時代の中心にいた。日本代表では35キャップ。選手として1987年、1991年、1995年のW杯に出場し、1999年大会には代表監督として臨んだ。
平尾のセンターは、体の強さではなく「考える」ことで勝負するスタイルだった。どこにスペースがあるか、相手が何を嫌がるか。今で言う「12番の第2司令塔」の役割を、日本でいち早く体現していた選手と言っていい。2016年10月、53歳の若さでこの世を去ったが、その言葉と考え方は今も多くの指導者に受け継がれている。
ラファエレ ティモシー&中村亮土――2019年のベスト8を支えた
2019年W杯日本大会で、日本がベスト8に進んだときのセンターは、12番の中村亮土と13番のラファエレ ティモシーが軸だった。
ラファエレは、日本ラグビー協会のプロフィールでも「オフロードキング」と紹介されるほど、タックルを受けながらボールをつなぐ技術に長けた選手。左足のキックも使え、特にウイングの福岡堅樹との連携は大会中に何度もチャンスを生んだ。日本代表は28キャップ。
中村亮土は鹿児島実業高校から帝京大学へ進み、4年時は主将として大学選手権5連覇を達成。2014年にサントリーに加わり、2021年から2季にわたって主将を務めた。日本代表は39キャップで、2019年と2023年のW杯に出場。体を張る守備と、10番を助けるパスで「12番らしい12番」だった。2026年1月、2025-26シーズン限りでの現役引退を発表している。
12番に求めるのは「前に出る体」か「試合を組み立てる頭」か。ノヌー型の支持者は、12番がゲインラインを越えなければ外の選手は走れない、と言う。平尾型の支持者は、10番1人に判断を背負わせるのは危険で、12番がもう一人の司令塔になってこそ攻撃に幅が出る、と返す。今の世界のトップは両方をこなす12番が増えているが、それでも「どちらに寄っているか」で、チームの色ははっきり変わる。
2026年、日本代表のセンター事情
ディラン・ライリー――「世界一の13番になれる」
- ポジション
- CTB(13番)
- 生年・出身
- 1997年・南アフリカ生まれ
- 所属
- 埼玉パナソニックワイルドナイツ
- 代表キャップ
- 日本代表43キャップ(2026年8月24日時点)
出典:JRFU、J SPORTS日本代表選手名鑑
今の日本代表の13番は、ディラン・ライリーが中心だ。南アフリカで生まれ、10歳でオーストラリアに移住。20歳以下オーストラリア代表に選ばれながらプロの道が開けず、2017年に来日して現在の埼玉パナソニックワイルドナイツの練習生になった。2021年10月、出身国オーストラリアとの試合で日本代表初キャップ。2023年W杯にも出場した。
187cm、102kgのサイズでスピードがあり、日本で磨いたパスの技術も高い。エディー・ジョーンズHCの評価はこうだ。
世界一の13番(アウトサイドセンター)になれる— エディー・ジョーンズHC(J SPORTS日本代表選手名鑑より)
ライリーについては、ディラン・ライリーのプロフィール記事でじっくり掘り下げる。
長田智希、廣瀬雄也、そして12番争い
PNCに向けた宮崎(大阪)合宿メンバー(8月24日発表、9月16日更新)には、センターとしてライリーのほか、長田智希(埼玉パナソニックワイルドナイツ)、廣瀬雄也(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、サミソニ・トゥア(浦安D-Rocks)、池田悠希(リコーブラックラムズ東京)が入った。
長田は東海大仰星高校で花園優勝、早稲田大学を経てワイルドナイツへ。リーグワンの新人賞を受賞し、2023年W杯にも出場した。センターとウイングの両方をこなせる器用さが持ち味だ。廣瀬雄也は明治大学で主将を務め、2025年8月のカナダ戦で初キャップ。CTBとSOをこなし、防御を引きつけながらの長いパスやキックに定評がある。2026年7月2日時点で5キャップ。トンガ出身のトゥアは182cm、108kgの体格を生かした突破力が武器で、12番の「パワー型」候補だ。
ライリーの13番がほぼ固まっているとすれば、焦点は12番。パワーのトゥア、器用な長田、司令塔タイプの廣瀬。どのタイプを隣に置くかで、日本代表のアタックの色は変わる。スタンドオフとの関係も含めて、スタンドオフの記事と合わせて読むと、10・12・13の三角形が見えてくるはずだ。
Q1平尾誠二が選手として出場したW杯は何大会?答えを見る
答えは3大会。1987年の第1回大会、1991年、1995年に選手として出場し、1999年大会には日本代表監督として臨んだ。
センターの連携は、テレビには映らない
オドリスコルの読み、ノヌーの突進とコンラッド・スミスの冷静さ、平尾の知性、ラファエレと中村の献身、そして今のライリー。名センターに共通するのは、自分が目立つことよりも、隣の選手とどうかみ合うかを考えていることだ。
センターの本当の見どころは、ボールがない場所にある。相手ボールのとき、12番と13番がどんな距離で並び、どちらが前に出て、どちらが流しているか。一度そこだけ見てみると、ラグビーの守備がどれほど緻密な会話で成り立っているかがわかる。
参考:Brian O’Driscoll(Wikipedia)/Ma’a Nonu(Wikipedia)/Conrad Smith(Wikipedia)/平尾誠二(Wikipedia)/中村亮土と流大が今季限りでの引退を発表(ラグビーリパブリック)/ディラン・ライリー(J SPORTS日本代表選手名鑑)
