「ラガーマンみたいな体になりたい」。そう思ってジムに行くと、たいていベンチプレスの台に並ぶ。でも、ラグビーの体は胸だけではつくれない。ぶつかって、倒れて、すぐ起きて、また走る。そのための筋トレは、重さを挙げる力に加えて、速く出す力、片脚で踏ん張る力、首と体幹の強さまで欲張る。トップのリーグワンがいまどんな環境で体をつくっているのかを確かめ、研究で分かっていることを押さえたうえで、自宅とジムで始められるメニューをポジション別に並べた。
- リーグワンでは、広いウエイトルームや屋内練習場、交代浴の浴室を備えた新拠点が続き、GPSのデータを扱うS&Cスタッフの仕事もクラブの募集に表れている
- ラグビーの筋トレの柱は「最大筋力」「パワー」「片脚の強さ」「首と体幹」。研究では筋力やパワーの高さと試合のプレー指標の関係が報告されている
- 始めは週2〜3回、1種目8〜12回で余裕を残す重さから。自宅なら自重とチューブ、ダンベルで十分に土台はつくれる
- ノルディック・ハムストリングや首のトレーニングはケガ予防の研究がある分野。ただし効果は約束ではなく、中高生は指導者の下で、痛みが出たら中止
Contents 目次
トップの「ジム」は、もうクラブハウスの中心にある
2022年1月、トップリーグの後を受けて「ジャパンラグビー リーグワン」が開幕した。発足時はディビジョン1が12クラブ、2と3が6クラブずつ。その前後から目に見えて変わってきたのが、練習拠点だ。
いちばん新しい例は、2026年9月に公開された栃木ホンダヒートの新拠点「ホンダヒート ゆいの杜ラグビーパーク」。三重県鈴鹿市から栃木県宇都宮市へ本拠地を移し、約3万8000平方mの敷地に天然芝グラウンド、屋内練習場、クラブハウスを整えた。J SPORTSの取材記事によると、ウエイトルームは鈴鹿の拠点の倍の広さになり、メディシンボールを投げ当てられるコンクリートの壁まである。グラウンドの反対側には、トレーニングに使える坂道も設けた。
まず、こんな広いジムはどこにもない。— レメキ ロマノ ラヴァ(栃木ホンダヒート)、J SPORTS 2026年9月23日
同じ記事で、ヘッドコーチのマリウス・フーセン氏は選手に「新しい施設に来たからといって試合に勝てるわけではない」と伝えたという。道具はそろった。あとは中身。ここは中学生のチームでもプロでも同じだ。
埼玉パナソニックワイルドナイツの本拠地施設「さくらオーバルフォート」は、2021年8月31日に熊谷スポーツ文化公園の中に竣工した(整備はパナソニック ホームズ)。ラグビー専門メディア&rugbyの記事では、高さ8mの屋内運動場、交代浴ができる浴室、そして一面鏡張りのジムには短いランコースまであると紹介されている。ウエイトの横で短いダッシュができる。筋トレと走りを分けて考えない、ラグビーらしい作りだ。
データの使い方も進んでいる。東京サントリーサンゴリアスが2024年に出したS&C(ストレングス&コンディショニング)コーチのインターン募集では、ジムやフィールドのトレーニング補助と並んで「GPSデータ処理」が業務に挙がっていた。一般にラグビーのGPS端末は選手の背中側に入れて使い、走った距離や高速で走った量を記録する。そうした数字を練習の量や強さの調整に生かすのが、S&Cスタッフの仕事の一つだ。
| チーム・例 | 確認できた環境 | 出典 |
|---|---|---|
| 栃木ホンダヒート(2026年〜) | ウエイトルームは旧拠点の倍、ボールを当てられる壁、屋内練習場(延床1233平方m)、トレーニング用の坂道 | J SPORTS 2026年9月23日 |
| 埼玉パナソニックワイルドナイツ(2021年〜) | 高さ8mの屋内運動場、交代浴の浴室、鏡張りのジムと短いランコース | &rugby 2021年8月31日、パナソニック ホームズ発表 |
| 東京サントリーサンゴリアス | S&Cインターンの業務に「GPSデータ処理」 | クラブ公式ニュース(2024年) |
| 日本代表(2015年W杯までのエディー・ジョーンズHC時代) | 合宿中に朝5時からのウエイトトレーニング | nippon.com(生島淳、2019年) |
日本代表の話もしておこう。2015年W杯でエディー・ジョーンズHCが率いた代表について、スポーツジャーナリストの生島淳さんは「代表選手は合宿中、朝5時からのウェイトトレーニングを課され、ジャージのサイズが変わるほどの肉体改造を現実のものとした」と書いている。また、日本代表のS&Cコーチとして取材を受けた太田千尋さんは、2019年のNIKKEI STYLEの記事で、選手にGPSや心拍計を着け、試合中の運動強度をもとに練習では10%、20%高い強度で正しい判断やプレーができるよう挑戦させる、と語っている。追い込むだけの時代から、測って追い込む時代へ。トップの体づくりはそこまで来ている。
ラグビーの筋トレは「挙げる力」だけでは足りない
ラグビーは、重いものをゆっくり押す競技ではない。タックルに入る一瞬、ブレイクダウン(タックル後のボールの奪い合い)で相手をはがす一瞬、ラインアウトで跳ぶ一瞬。力を出す時間はとても短い。だから筋トレも、狙いを分けて考える。
最大筋力は土台だ。スクワットやベンチプレスで重いものを挙げる力。パワーは、その力を速く出す能力で、ジャンプやプッシュプレス、クリーンのような種目で鍛える。片脚の強さは、走る、切り返す、タックルで踏み込むといったラグビーの動きがほとんど片脚で起きるから外せない。そして首と体幹。コンタクトの衝撃を受け止める部分だ。
研究も少しのぞいておく。国際レベルのラグビーユニオン代表29人を調べた2018年の研究(Cunninghamら、PLOS ONE)では、筋力・パワー・間欠的な走力が高い選手ほど、試合の主要なプレー指標(キャリー数やタックル数、ラックへの到達など)が良い傾向があった。たとえばBKでは、そりを押すテストの速さがキャリー数や「優位に立てたコンタクト」の数と強く関係していた。ただし相関を見た研究で、筋トレをすれば試合の数字が上がると証明したものではない。
年代別の選手を調べた42本の研究をまとめた2020年のレビュー(Owenら、PLOS ONE)では、FWは身長・体重・筋力が大きく、BKは速く持久力が高いという差が見られた。FWは走る量が少ない代わりにコンタクトが多い。この差が、あとで紹介するポジション別の重点につながる。
もう一つ覚えておきたいのが「落ちる速さ」。ラグビーやアメフトのエリート選手の研究27本を分析したレビュー(McMasterら、2013年)では、平均7週間ほどトレーニングを止めた期間で筋力が平均14.5%落ちていた。同じレビューは、筋力やパワーを伸ばすために、1つの部位を週2〜4回鍛える頻度を示している。シーズン中も完全には止めない。ここが分かれ目。
ケガに強い体へ:ハムストリングと首
ラグビーで多い肉離れの一つがハムストリング(太ももの裏)。イングランドのプロチームを調べた2006年の研究(Brooksら、American Journal of Sports Medicine)では、試合中のハムストリングのケガは1000時間あたり5.6件。ハムストリングのケガの68%はランニング中に起きていた。同じ研究で、通常のストレッチや筋トレに加えてノルディック・ハムストリングをしていた選手は、ケガの件数と重さが少なかった。
その後、15本の研究・8459人を統合した2019年のメタ解析(van Dykら、British Journal of Sports Medicine)では、ノルディックを含む予防プログラムでハムストリングのケガが最大51%少なかったと報告されている。対象はラグビーに限らない複数の競技の選手だ。筋トレ全般でも、無作為化比較試験25本・2万6610人をまとめた2014年のメタ解析(Lauersenら、同誌)で、筋力トレーニングによってスポーツのケガのリスクが3分の1未満に下がったと報告されている。
Q1ノルディック・ハムストリングは、脚のどちら側を鍛える種目?答えを見る
太ももの裏(ハムストリング)。膝立ちで足首を押さえてもらい、体をまっすぐに保ったまま前へゆっくり倒れていく。筋肉が伸ばされながら力を出す「エキセントリック」の動きだ。World Rugbyのケガ予防ウォームアップ「Activate」にも入っていて、試合前のアップでは外すよう書かれている。
首は、鍛えれば筋力が上がることははっきりしている。26本の論文を対象にした2024年のメタ解析(Ivanicら、British Journal of Sports Medicine)で、筋トレによる首の等尺性筋力の向上は質の高い根拠で確認された。一方で、首の筋トレそのものが脳震盪を減らすかを調べた研究は、その時点で見つかっていない。「首を鍛えたから安全」ではない。正しいタックルの形とセットで考えたい。タックルの入り方はタックルのコツ(安全な入り方)で、首の種目を含むWorld Rugbyのプログラムはケガを減らすウォームアップ「Activate」で掘り下げている。
自宅でやるなら:自重とチューブ、ダンベルで土台をつくる
ジムに通えなくても、始めることはできる。ラグビーの体づくりの最初の半年は、重さよりフォームと片脚の安定が先。自宅はむしろ向いている。
回数と頻度の目安は、アメリカスポーツ医学会(ACSM)が2009年に出した筋トレの指針を土台にした。初心者は8〜12回で限界がくる負荷を週2〜3回。大きな筋肉の種目から小さい種目の順に、両脚の種目と片脚の種目の両方を入れる。自重で12回が軽く感じたら、ゆっくり下ろす、片脚にする、ダンベルを持つ、の順で難しくしていく。中学生はダンベルを持たず、自重の範囲で行う(理由は後述の協会ガイドを参照)。
| 種目 | 狙い | 回数×セット(初心者の目安) |
|---|---|---|
| ゴブレットスクワット(ダンベルを胸の前で持つ) | 下半身の土台 | 8〜12回×2〜3 |
| リアフットエレベーテッド・スプリットスクワット | 片脚の強さ・踏み込み | 左右8〜10回×2〜3 |
| ダンベル・ルーマニアンデッドリフト | もも裏・お尻(ヒップヒンジ) | 8〜12回×2〜3 |
| 腕立て伏せ(足を台に乗せると難しくなる) | 胸・肩・腕の押す力 | 8〜15回×2〜3 |
| チューブローイング/片手ダンベルロウ | 背中の引く力・肩の安定 | 10〜12回×2〜3 |
| ノルディック・ハムストリング(補助つき) | もも裏のエキセントリック | 3〜5回×2 |
| プランク/サイドプランク | 体幹で姿勢を保つ | 20〜40秒×2〜3 |
ノルディックは最初から深く倒れなくていい。倒れきれない位置で手をつき、腕立ての形で戻る。翌日にもも裏が強く張ることが多い種目なので、回数は少なく始める。首は、Activateのマニュアルにある「手で頭に力を加え、頭は動かさない」静的な収縮(前・後ろ・左右)から。道具を使って首に重りをかけるのは、その後の話だ。
そして何より、痛みが出たらその日は中止。筋肉の張りとは違う関節や首の痛み、しびれがあるなら、医師や指導者に相談してから再開したい。
ジムでやるなら:スクワット、ヒンジ、押す、引く
ジムに行けるなら、バーベルの基本種目が主役になる。組み立てはシンプルでいい。しゃがむ(スクワット)、股関節から曲げる(デッドリフト系)、押す(ベンチプレス)、引く(懸垂・ローイング)。これに片脚種目と体幹を足す。
| 種目 | 初心者(〜半年) | 経験者(半年以上) |
|---|---|---|
| バックスクワット | 8〜12回×3 | 3〜6回×3〜5 |
| ルーマニアンデッドリフト/トラップバーデッドリフト | 8〜10回×3 | 3〜6回×3〜4 |
| ベンチプレス | 8〜12回×3 | 3〜6回×3〜5 |
| 懸垂(補助あり可)/ベントオーバーロウ | 6〜10回×3 | 5〜8回×3〜4 |
| ブルガリアンスクワット/ステップアップ | 左右8〜10回×2〜3 | 左右6〜8回×3 |
| プッシュプレス/パワークリーン(指導者の下で) | まず軽い重さでフォーム練習 | 3〜5回×3〜5(速く挙げる) |
経験者の欄は、ACSMの指針にある「経験を積んだら1〜6回で限界がくる重い負荷も周期的に取り入れ、セット間は3〜5分休む」という考え方に沿ったもの。パワー種目は同じ指針で、軽めの負荷を速く3〜5セット、が目安として示されている。ただ、クリーンのようなクイックリフトは技術の種目だ。最初は必ず指導者に見てもらい、動画で自分のフォームを確認してから重さを上げたい。
週の組み方の一例。週3回なら、1日目は下半身の重い日(スクワット+片脚)、2日目は上半身(ベンチ+懸垂+ロウ)、3日目は全身とパワー(デッドリフト系+プッシュプレス+ノルディック)。練習や試合がある週は回数を落とし、試合の前々日から前日は軽く。チームの練習量と合わせて考える。トップのクラブがGPSのデータで練習の量や強さを調整しているのと同じ発想の、アマチュア版だ。
中学生・高校生はここに一つ加える。日本ラグビーフットボール協会のU-15ジュニアラグビー競技ガイドは、中学生は成長期で骨や関節が成長途中であることを考え、自分の体重を使ったトレーニングに限定し、用具で過度な負荷をかけないよう求めている。高校でバーベルを始めるなら、顧問やS&Cの経験がある指導者の下で、軽い重さのフォーム練習から。
ジム派の強みは、重さを細かく上げていけることと、バーベルの基本種目ができること。最大筋力を伸ばすなら有利だ。自宅派の強みは、続けやすさ。移動がない分、練習後の15分でも回せる。片脚種目やノルディック、首の静的トレーニングは自宅でも十分できる。平日は自宅、週末はジム、という組み合わせもありだ。
FWとBK、重点はどこが違う?
メニューの骨組みは同じでいい。変わるのは比重だ。FWはスクラムとモール、ラックでの押し合いが多く、BKは加速とスプリント、切り返しが多い。ポジションごとの役割はポジションと役割で確認できる。
| FW(1〜8番) | BK(9〜15番) | |
|---|---|---|
| 優先したい力 | 最大筋力、押し続ける力、首 | パワー、加速、片脚の強さ |
| 多めにしたい種目 | スクワット、デッドリフト系、ベンチプレス、ロウ | 片脚スクワット、ジャンプ系、プッシュプレス、ノルディック |
| 首・体幹 | 首の静的トレーニングを毎回(とくにフロントロー) | 首は週2〜3回、体幹は回旋やサイドプランクも |
| 体重の考え方 | コンタクトに耐える体重と筋量を段階的に | スピードを落とさない範囲で |
| 気をつけたい点 | 重さを追いすぎて走力を落とさない | ハムストリングの肉離れ予防を忘れない |
フランカーやNo.8のようなバックローは、FWとBKの中間。押し合いにも参加し、BK並みに走る。フロントローは首とスクラムの姿勢づくりが最優先。1〜3番がスクラムで何を背負っているかはプロップやフッカーの記事で掘り下げている。
器具を選ぶなら
自宅で始めるなら、全部そろえる必要はない。最初の1つはダンベルかチューブ、次にベンチ、と段階的に。置き場所と床の強さも確認しておきたい。
トップのクラブハウスには、倍の広さのジムも、鏡張りのランコースも、GPSの数字もある。でも、その中でやっていることは、しゃがむ、引く、押す、片脚で踏ん張る、首を固める、の積み重ねだ。自宅の6畳でも同じ種目はできる。週2回、8〜12回。フォームを崩さず、痛みが出たら止める。ラグビーの体は、そうやって少しずつ大きくなる。
参考:J SPORTS「栃木ホンダヒートが新拠点を公開。レメキは『世界一のクラブハウス』と大絶賛」(2026年9月23日)/&rugby「埼玉パナソニックワイルドナイツ、始動。さくらオーバルフォートが姿を現す」/パナソニック ホームズ「『さくらオーバルフォート』を竣工」/東京サントリーサンゴリアス「S&Cコーチインターン募集のお知らせ」(2024年)/nippon.com「エディー・ジョーンズが変えた日本のラグビーとビジネスカルチャー」/NIKKEI STYLE「ラグビー代表 コーチが明かす『疲れない体』の作り方」/Cunningham et al. 2018(PLOS ONE)/Owen et al. 2020(PLOS ONE)/McMaster et al. 2013(Sports Medicine)/Brooks et al. 2006(AJSM)/van Dyk et al. 2019(BJSM)/Lauersen et al. 2014(BJSM)/Ivanic et al. 2024(BJSM)/ACSM Position Stand 2009/World Rugby「Activate」マニュアル/日本ラグビーフットボール協会「U-15ジュニアラグビー競技ガイド」
