2026年9月、日本代表はパシフィックネーションズカップ(PNC)を7年ぶりに制した。カナダ戦からPNC決勝まで、9月の3試合で先発2番を背負い、合わせて4トライ。準決勝のアメリカ戦ではプレイヤー・オブ・ザ・マッチにも選ばれた。フッカーの原田衛だ。身長175センチ。代表FWの中では小柄なほうに入る。それでも、6月のマオリ・オールブラックス戦ではJAPAN XVのキャプテンを任されていた。本人は以前「キャプテンよりもバイスキャプテンが一番合っている」と話していたのに、である。
- 原田衛は1999年兵庫県伊丹市生まれ。桐蔭学園高、慶應義塾大でともに主将を務め、2022年に東芝ブレイブルーパス東京へ入った。
- JAPAN XVのキャプテンとしてマオリ・オールブラックスと戦ったのは2024年6月29日(共同ゲームキャプテン)と2026年6月27日の2度。
- 日本代表キャップは19(2026年9月19日のPNC決勝終了時点)。2026年はモアナ・パシフィカでスーパーラグビーを経験し、東芝へ再入団した。
- 武器はスローとモール、そして“言いにくいことを言う”リーダーシップ。秋の代表メンバーは9月25日時点で未発表だ。
Contents 目次
伊丹の5歳から、桐蔭と慶應の主将へ
原田は1999年4月15日、兵庫県伊丹市に生まれた。5歳で地元の伊丹ラグビースクールに入り、高校は神奈川の強豪・桐蔭学園へ。ここで主将を務め、3年時には高校日本代表としてアイルランド遠征にも出ている。
2018年に慶應義塾大学へ進み、ジュニア・ジャパンやU20日本代表にも選ばれた。2021年度には慶應の主将。つまり、高校でも大学でもチームの先頭に立ってきた人間だ。大学ラグビーを見てきた人なら、慶應が「前に出る」タックルとFWのしつこさを看板にしてきたチームだと知っていると思う。原田の低いタックルを見ていると、その系譜を感じる。
- ポジション
- HO(フッカー)
- 生年・出身
- 1999年4月15日・兵庫県伊丹市出身
- 所属
- 東芝ブレイブルーパス東京
- 代表キャップ
- 19(2026年9月19日時点)
出典:日本ラグビーフットボール協会、ラグビーリパブリック
東芝で“副将”として勝ち方を覚えた
2022年春、東芝ブレイブルーパス東京に加入。4月16日のリーグワン第13節ブラックラムズ戦で公式戦デビューを果たすと、翌2022-23シーズンは全16試合に出場した。2023年11月にはチームの副将に就任している。
転機は2023-24シーズンだ。主将のリーチ マイケルがケガで離れたリーグ戦中盤、ゲームキャプテンを務めながらチームを回し、東芝はリーグワン初優勝。トップリーグ時代から数えて14季ぶりの日本一だった。原田自身もリーグワンのベストフィフティーンにフッカーで選ばれた。翌2024-25も副将として全試合に出場し、連覇に貢献している。
2024年、初キャップとJAPAN XVの主将
日本代表の初キャップは2024年6月22日、イングランド戦。いきなり先発だった。その1週間後、6月29日のマオリ・オールブラックス戦ではJAPAN XV(日本代表に準じるチーム)の共同ゲームキャプテンを務めている。9月7日のPNCアメリカ戦で代表初トライ。エディー・ジョーンズHCの第2次体制で、最初の年から主力に入った選手の一人だ。
2025年8月には、PNCに向けてワーナー・ディアンズとともに日本代表の共同キャプテンに指名された。ただ、このときはコンディション不良で大会の試合に出られないまま離脱している。当時ラグビーリパブリックのコラムは、原田が自分について「キャプテンよりもバイスキャプテンが一番合っていると思う」と話していたことを紹介していた。控えめな自己評価と、周囲からの評価。そのズレが、この選手の面白いところだ。
モアナ・パシフィカで1年、そして“2度目のマオリ戦”
2025年6月、原田は東芝を退団して海外に挑戦すると発表した。同年11月、行き先がスーパーラグビー・パシフィックのモアナ・パシフィカに決まる。2026年2月20日、ハリケーンズ戦の後半から出てスーパーラグビーデビューを果たしている。相手チームには、東芝で一緒にプレーしてきたディアンズがいた。
スーパーラグビーでは先発の座をつかみ切るまでには至らなかった。JAPAN XVのメンバー発表時、本人も「個人としては久しぶりの先発」と話している。2026年6月11日、東芝ブレイブルーパス東京への再入団が発表され、日本代表の宮崎合宿へ。そして6月27日、名古屋のパロマ瑞穂スタジアムで行われたマオリ・オールブラックス戦で、JAPAN XVのキャプテンを任された。
重要なのはセットピースだと思う。ラインアウトの安定とスクラムのドミネートするところで、若い選手を助けたい— 原田衛(ラグビーリパブリック、2026年6月25日)
試合は31-38で敗れた。それでも原田は前半33分にトライを挙げ、23,165人の前でチームを引っ張った。0キャップの選手や大学生が並ぶメンバーを束ねる役目だったことを考えると、キャプテン指名の意味は大きい。
9月の3試合で4トライ。フッカーがなぜそんなに獲れるのか
ここからが2026年の本番だ。7月1日の時点で12キャップ。ラグビーリパブリックは「約1年ぶりのテストマッチ出場」と書いていた。そこから7月、8月、9月と出場を重ね、9月19日のPNC決勝を終えて19キャップまで伸ばした。
| 試合(2026年) | スコア | 原田のトライ |
|---|---|---|
| 9月5日 カナダ戦(新潟) | 57-12 | 2 |
| 9月12日 PNC準決勝 アメリカ戦(花園) | 63-14 | 1 |
| 9月19日 PNC決勝 フィジー戦(秩父宮) | 20-15 | 1 |
フッカーのトライが多い理由は、ほぼ一つに絞れる。ラインアウトからのモールだ。敵陣ゴール前でラインアウトを取り、FWが塊になって押し込む。そのとき最後尾でボールを持ってインゴールに運ぶ役を、スローを投げ終えたフッカーが担うことが多い。PNC決勝の前半22分、相手のイエローカードで数的有利になった場面で日本が奪ったトライも、ラインアウトモールから原田がグラウンディングしたものだった。
カナダ戦の後、原田はこう話している。モールでトライを獲り、逆に獲られなかったことを評価したうえで、「相手にフォーカスせず、自分たちの接点での強さを上げていきたい」と(ラグビーリパブリック、2026年9月10日)。勝った試合のあとで、次の課題を先に言う。キャプテン経験者らしい話し方だと思う。
一番の武器はどれか。スロー、タックル、キャプテンシー
スロー:モールは“投げた瞬間”に始まっている
ラインアウトのスローは、フッカーの仕事の中で一番ごまかしがきかない。ボールがまっすぐ通らなければノットストレートで相手ボールのスクラム。ジャンパーの最高到達点に合わなければ、相手に競られてボールを失う。モールでトライを重ねられるのは、そもそもスローが安定しているからだ。
残念ながら、2026年の原田のラインアウト成功率を公式に確認できる数字は見つけられなかった。ここは数字でなく目で見てほしい。ボールの回転がきれいに揃っていて、ジャンパーが手を伸ばした先に吸い込まれるように届く。投げ方の基本はラインアウトスローの投げ方と練習法で詳しく解説する。
タックル:175センチの“低さ”は武器になる
フッカーは背の高さを求められない数少ないFWのポジションだ。175センチ、101キロ(2026年9月の代表発表時)の原田は、代表のFWの中では小柄に入る。でも、その分だけ相手の膝下に早く入れる。ラグビーをやっていた人なら覚えがあると思うが、自分より低い位置から刺さってくるタックルほど嫌なものはない。
キャプテンシー:静かな声で束ねる
2023-24の東芝、2024年と2026年のJAPAN XV、2025年の日本代表共同主将。肩書きを並べると「生まれながらのリーダー」に見えるが、本人は副将のほうが合っていると言っていた。前に立って叫ぶタイプではなく、ハードワークで周りを納得させるタイプ。その姿勢は、代表の中でも随一と評されてきた。
スロー派の言い分:モールでトライを量産できるのは、スローが安定しているからこそ。フッカーの価値は結局セットプレーで決まる。キャプテンシー派の言い分:JAPAN XVで0キャップの選手を束ね、東芝ではリーチ不在の時期を回して優勝した。数字に出ない仕事こそ原田の本質だ。
2026年秋、原田はどこにいるのか
9月の3試合では、SH齋藤直人がゲームキャプテンを務めた。原田はその横で先発2番を担い、準決勝ではプレイヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれている。キャプテンマークがなくても、チームを前に進める役割は変わらない。
次の代表戦は10月24日の秩父宮でのフィジー戦、その後に11月の欧州遠征が続く。2026年9月25日時点で、秋の代表メンバーはまだ発表されていない。フッカーの枠には埼玉パナソニックワイルドナイツの佐藤健次(23歳)もいて、PNC決勝ではリザーブから出場した。先発を争うライバルがいるのは、代表にとっていいことだ。W杯2027へ向けた33人の顔ぶれは日本代表メンバー予想で詳しく予想している。
クラブでは、東芝ブレイブルーパス東京が2026-27シーズンに向けて準備を進めている。トッド・ブラックアダーHCは6月の会見で、代表活動を終えた原田とディアンズの合流を「来季のリーグワン開幕の1週間前」と見込んでいた。リーグワンは12月12日開幕。同じ年にスーパーラグビーへ渡ったワーナー・ディアンズとともに、府中へ戻ってくる。
フッカーというポジションの全体像や、世界と日本の名フッカーについてはフッカーの特徴と伝説の選手にまとめた。そこで紹介した先人たちと比べても、原田は“投げて、刺さって、束ねる”のバランスがいい。W杯を1年後に控えたいま、日本代表の2番として一番頼れる選手の一人になった。
参考:ラグビーリパブリック(2026年6月25日)/ラグビーリパブリック コラム(2025年9月4日)/ラグビーリパブリック(2026年9月10日)/日本ラグビーフットボール協会 PNC2026決勝 公式試合記録/日本ラグビーフットボール協会 PNC2026準決勝 公式試合記録/ラグビーリパブリック(2026年9月17日)
